2024年11月22日(金)

解体 ロシア外交

2011年11月26日

グルジアに圧力をかけたのは?

 グルジアは既述のように、ロシアのWTO加盟問題を自国外交の重要な切り札としてきたわけだが、米国のオバマ大統領が、対ロ「リセット政策」(リセットについては拙稿「『リセット』後も紆余曲折の米ロ関係」朝日WEB RONZAシノドス・ジャーナルを参照)を進めるにあたって、ロシアのWTO加盟を支持するようになってから、グルジアの立場が徐々に悪くなっていったように思われていた。「属国」とまで称されるほど、グルジアが大きく経済的に依存している米国が、ロシアのWTO加盟を支援する以上、米国がグルジアに圧力をかけることは当然と考えられたからである。実際、グルジアはリセット政策を好ましく思っていない。

 しかし、筆者が9月にグルジアで政府関係者や学者などに本件についてインタビューをしたところ、政府関係者は全員が「グルジアは主権国家であり、その問題についてはどの国からも圧力を受けていない」と答えた。ある著名なグルジア人研究者は、「米国がグルジアに圧力をかけているように見られているが、そうではなく、グルジアに圧力をかけているのはロシアと関係が深いドイツだ」と答えていた。ドイツとロシアの関係はエネルギー協力に代表されるように(たとえば、最近では両国が主導するノルド・ストリームが開通した。ノルド・ストリームについては拙稿「独露のノルド・ストリームの開通-その背景と駆け引き」朝日WEB RONZAシノドス・ジャーナルを参照)、確かに緊密である。

 さらに、米国からの圧力の有無についても「ない」とも言えなさそうだ。グルジア人の識者の多くが、米国からの圧力が何より大きかったと述べているだけでなく、ウィキリークスなどで、米国がグルジアに圧力をかけていたことは明らかになっている。さらに、グルジアから妥協を導いたとして、ロシア側が米国に深い感謝の念を再三表明しているからだ(さらに、ロシアのリャブコフ副外相は、ロシアはWTO加盟問題で世話になったことと、米国との武器制限問題、核不拡散問題、弾道ミサイル防衛システム(BMD)やロシアが反対するイランへの新制裁などの問題とは完全に別と考えており、それらの問題でロシアが妥協することはないと明言しており、それがロシアの公式見解だと考えられている)。

「グルジアが得るものは何もない」

 筆者としては、少なくとも、ロシアとのリセットを目指す米国と、ロシアとの関係強化を模索しているドイツを中心とした欧州連合(EU)がグルジアに圧力をかけ、グルジアが10月27日に仲介国のスイスと交渉し、その妥協案を受け入れるに至ったことは間違いないと見ている。

 2008年のグルジア紛争後、ロシアはアブハジアと南オセチアを国家承認し、それらを「主権国家」として、ロシアとの国境に税関を設置していたが、グルジア側はこうした税関手続きに反発し、グルジアが税関の管理をすることを主張していた。しかし、妥協案では、両係争地域では民間企業からなる国際監視団が通関に関与することが提示され、グルジア、ロシアが共に同案で折れた形だ。

 グルジアの態度の軟化を欧米は歓迎しているが、その一方で欧州委員会の委員長は、グルジアとは自由貿易圏の創設も含めた政治的、経済的統合を行うための作業も続けられることを明らかにしている。また米国のバイデン副大統領も、「グルジアとロシアの経済関係が強化され、緊張が緩和される」と述べ、グルジアが英断によって、自国の利益を勝ち取ったかのような美談にまとめている。

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