ロシアのWTO(世界貿易機関)の加盟がいよいよ実現の運びとなった。
11月2日、ロシアのWTO加盟に最後まで反対していたグルジアと、ロシアの政府代表が大詰めの交渉を行った。10月末時点でスイスの仲介案に受諾していたグルジアに続いてロシアが同案を受諾し、9日には2国間の合意文書が署名されたのだ。次いで、翌10日には、WTOのロシア加盟作業部会が加盟の正式承認に必要な議定書を採択した。12月15日から開催されるWTO閣僚会議での承認とロシア下院による批准を経て、来春、WTOの正式メンバーとなることはもはや確実になった。
ロシアがエリツィン政権下の1993年に加盟を申請してから、交渉は、農業や天然資源、知的財産権などの問題を巡って難航し、史上最長の18年間という長いものとなったが、ようやく実を結んだ形だ。旧ソ連諸国15ヶ国の中では、9ヶ国目の加盟国ということになる。
ロシア加盟の効果と裏事情
WTO未加盟の最後の経済大国とされてきたロシアの加盟により、「WTOの加盟国は世界貿易の98%を占めるようになる」とWTOのラミー事務局長は誇らしげに発言している。また、WTO側は、加盟後にロシアの平均輸入関税率は現在の10%から7.8%に下がるとしており、特に、自動車などの工業製品は9.5%から7.3%に、農産品は13.2%から10.8%に下がると試算されている。金融分野でも外資の参入が認められるようになるなど段階的な自由化が進むと期待されている。
海外の企業の多くも大きな利得を得そうだ。たとえば、現在、航空会社はロシア領空通過料として年間3億ドルを支払っているが、これが「通商上の障壁」と見なされ、撤廃されることになる。その他にも、米国の養鶏、グルジアのミネラルウォーターおよびワイン、ドイツの生きた豚などはロシアの保健当局や消費者保護当局の「健康・安全面で問題がある」という偽りの口実により、輸出ができなかった。しかし、今後はロシア側の輸入禁止措置に「科学的根拠がない場合」には、国際的な場で是正を要求することができるようになるのだ。
しかし、全てがバラ色というわけでもなさそうだ。
12月のWTO閣僚会議での目玉がなく、会議に泊付けするために、ロシアの加盟を実現させようとした事務局が、ロシアの加盟に反対する国々に様々な圧力をかけ続けたという報道もあるからである。特に強調すべきは、ロシアのWTO加盟の最大の障害とされてきたグルジア問題である。
グルジアは、ソ連解体後、ロシアと厳しい関係にあったが、2008年のグルジア紛争でロシアとの関係は決定的に悪化した。WTO加盟には基本的に153の全加盟国・地域の承認が必要とされていることから、2000年にWTO加盟済みのグルジアは、ロシアのWTO加盟承認の問題を、対ロシア外交のための、もっと言えば、自国のアブハジア、南オセチア問題打開のためのほぼ唯一と言って良い切り札としてきた(拙稿「継続するグルジアとロシアの「冷戦」」朝日 WEB RONZAシノドス・ジャーナル)参照)。
実はグルジアは、ロシアの加盟承認についてずっと強硬だったわけではなく、グルジア紛争前には、加盟を認めるための条件をかなり緩和した時期もあり、特に2008年初頭は妥結が生まれそうな雰囲気があったが、8月のグルジア紛争で一気に態度を硬化させた。グルジアが唯一、ロシアの加盟を承認してこなかったことから、このグルジアの譲歩こそがロシアのWTO加盟のカギとされてきたのである。