ロシアの保護下でしか生きられない
アブハジアと南オセチア
しかし、グルジアでは、ロシアに対する切り札をみすみす捨てたとして、反発の声も少なくない。一方、欧米からこれほどの圧力を受けた以上、小国グルジアは拒否できないという諦めの声も多いという。筆者が11月17日にインタビューをしたグルジア人研究者は、「今回の合意でグルジアが得るものは何もない。民間企業からなる国際監視団というが、民間企業が現地に来て監視をする保証はなく、インターネットで現地とやりとりする程度の監視かもしれない。そうだとすれば、ロシアやアブハジア、南オセチア側にとって、全く何も変化はなく、グルジアだけが損する形になりかねないが、欧米のひどい圧力に屈せざるを得なかったのだろう」と述べていた。
また、ロシアに「独立」を保護されている状態のアブハジア、南オセチアも、この動きに反発を示している。アブハジア、南オセチアの指導部は共に、「主権国家である自国に、国際監視団ならびに全ての形態の監視は入れさせない」と主張しており、今回の妥協案は、両「国」の主権の侵害だとして激しい憤りを表明している。また、実質、両「国」の独立を侵害することで、自国のWTO加盟を勝ち取ったロシアに対する批判もかなり強くなっている。
しかし、アブハジアも南オセチアも、ロシアからの経済的、軍事的、政治的保護があって、独立的な状況を維持しているに過ぎず、ロシアを怒らせては、両地域がグルジアの主権が及ばない状態で生存していくことが不可能になることは間違いないため、結局は妥協案を甘んじて受け入れるはずである。それに、もし上述のグルジア人研究者の予想が現実となってしまった場合は、アブハジアも南オセチアが受ける影響はほとんどないかもしれないのである。
実は人件費の高いロシア
日本への影響は?
ロシアのWTO加盟を歓迎している日本への影響についても様々な声がある。
たとえば、アジア太平洋経済協力会議(APEC)開催中の11月12日に、枝野経済産業相とロシアのナビウリナ経済発展相が会談をしたが、その際、ロシア側は、WTO加盟後、乗用車などの輸入関税を段階的に引き下げると表明した。ロシアは2009年1月に、25%だった乗用車の輸入関税を30~35%に引き上げたが、WTO加盟後は6.5%程度まで下がる可能性がある。また、経済発展相は関税引き上げが予測されていたハイテク製品についても、WTO加盟後は引き上げないと述べたという。日本は、ロシア向けの工業製品の輸出の拡大などの恩恵を受けることができそうだ。
しかし、ロシアでは人件費が高いため、2001年の中国のWTO加盟時ほどの起爆剤になる期待はできないという見方もあり、真の効果は実際に動き出さないと見えてこないかもしれない。
そもそもロシアは本当に加盟したかったのか
ロシアは今後、WTOのルールの遵守を求められ、知的財産権保護など、ロシアの取り組みが遅れてきた分野などでの対応が急務となるとともに、自国に都合のよい関税政策などもとれなくなってくる。全分野で関税を下げる義務を負い、輸出品や輸入代替品への助成はもはやできなくなるし、食料輸入を阻止するために不当な言いがかりをつけたり、割り当て措置のような輸入規制を理由なく課したりすることも不可能となる。競争力の弱い国内製造業、具体的には旧ソ連時代から業績が低迷している食品製造、繊維、建築資材などの業界が打撃を受けることになることも間違いない。銀行、保険会社もまた、競争激化の荒波にさらされそうだ。