チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年11月30日

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 小さな商店が軒を並べ、車やバイクが行き交う、ごくありふれた田舎の街並み……。であるはずの光景が、ある日、一変した。その様子を密かに撮った画像・映像が後日、「Horrifying Image――震撼させられる画像」なる見出しとともに、英国メディアに大きく載ったのは、画面手前に映る人形(ひとがた)のせいである。

全身から上がる大きな火柱と黒煙

 車道に直立したその体、その全身からは大きな火柱と黒煙が上がっている。動画を見ると、周囲から悲鳴があがる中、全身を炎に包んだこの人はしばし直立不動ののち、わずかに2、3歩前進したように見え、崩れ落ちた。見出しのとおり、見た者を凍りつかせるこの画像・映像ではしかし、男か、女かも判然としない。が、くるぶしまである衣の様子から、チベットの僧侶であろうということは伺えた。

 あまりにも衝撃的なこの画像と映像は、11月3日の白昼、東チベットのカムゼ(四川省甘孜チベット族自治州)にあるタウ(道孚)という地区の路上で、パルデン・チュツォという35歳の尼僧が焼身自殺を図った際のものと伝えられている。自殺の理由は、今年に入って相次ぐ僧侶らの焼身自殺と同様に、チベットで続く中国当局による宗教的自由および人権の抑圧に対する抗議の意志を示したものとされる。

 そもそも本コラムの読者の皆さんは、本年3月以降、チベットで僧侶の焼身自殺が相次いでいる件をご存知だろうか。18歳から35歳の僧侶ら11人が自らの身に火を放ち、少なくとも6人が命を落とし、うち2人は尼僧だという情報を、果たして何人の日本人が認識していることか。この件、日本の新聞等でも報道はされたが、他のニュースとの兼ね合いもあって扱いは大きくなく、生々しい写真や映像が出ることはむろんなかった。

チベット仏教は殺生を禁じているのになぜ?

 2011年という年は、ひょっとすると後世、中国における民族問題にとって節目の年だったといわれるかもしれない。それほどまでに今年、中国国内では、民族問題に絡んだ大事件がいくつも発生した。そして、またもや多くの無辜のチベット人、モンゴル人、ウイグル人が命を落としたが、われわれはまたもや無力だった。

 本稿では、チベット、ウイグル、南モンゴルという三民族地域で本年起こったことのすべてに言及することはできないので、まずチベットで相次ぐ僧侶の焼身自殺の件のみくわしく触れることとする。

 僧侶の焼身自殺が相次いでいる件について、チベット亡命政府の駐日代表である、ダライ・ラマ法王日本代表のラクパ・ツォコ氏に聞くと、次のように述べた。

 「中国当局のチベット人への弾圧は厳しさを増すばかりで、もはや自由を求めるデモなどもできません。しかし、何とかしてチベットの現状を訴えたい、そういう思いからの行動だと理解しています」

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