COP17 日本孤立論は自虐的
現地レポート

京都議定書で追い込まれているのはEU


澤 昭裕 (さわ・あきひろ)  国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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「京都議定書 進む延長論 日本置き去り」(日本経済新聞)
「京都延長論で熱気」(朝日新聞)
「議定書葬るな」途上国は批判(産経新聞)
「議定書延長に対する日本の消極姿勢に批判が強まっている」(毎日新聞)
12月8日(木)の朝刊で各紙はこのように報道しているが、現地に来ている人間からすると、全く理解できないという。

 COP17についての日本の国内報道は、ほとんどが「日本抜きの京都議定書延長が決定的になり、日本は孤立し、苦しい立場に追い込まれている。」というストーリーらしい。

 しかし、現地に来ている人間からすると、どこをどう見るとこういう風に見えるのか、全く理解し難い。これまでのCOPでは確かにそういう場面に陥ったことがあるのは事実だが、今年は全く違う。こうした自虐的な精神構造から早く脱却せねば、国益がぶつかり合うマルチの国際交渉で勝てるわけがない。常に背中から飛んでくる銃弾に気を配らなければならないからである。

日本の評価は高まっている

 今回の構図はこうだ。少し時間を遡ろう。

 コペンハーゲンでのCOP15で、EUは、米国と新興途上国との間で妥協した内容をそのまま飲まされるという失態を演じた。交渉での存在感の発揮できなかったEUは、カンクンでのCOP16で、京都議定書延長論を武器にリーダーシップを取り戻そうとしたのだ。ところが、最後はEUの言いなりになると踏んでいた日本が、閣僚会議初日に「京都議定書は先進国しか削減義務がない。それでは世界の排出量の4分の1しかカバーしておらず、今後排出量が急増する見込みの新興途上国も削減に参加する新たな枠組みを目指すべき」と正論をぶったものだから、EUは見込み違いに大いに慌てることとなった。なぜなら、実はこの日本の京都議定書や次の枠組みに対する考え方は、今後の温暖化問題に真の解決をもたらさなければと考えている国の静かな共感を呼び、日本に対する評価が高まったからだ。

 もちろん、京都議定書は現存する唯一の法的枠組みであり、先進国と途上国の歴史的責任を踏まえた「共通だが差異ある責任」という原則が盛り込まれた、非常に貴重な国際枠組みである。それだけに、途上国が神聖視することも自然な反応だ。したがって、その神聖性にチャレンジすれば非難を浴びることがわかっているので、どの国も表向きは京都議定書に反対したくない。そんな中で、日本がCOP16の公式な場面で京都議定書では不十分だと述べたことによって、本音として同感だと考えていた国から「よくぞ言ってくれた」という評価を得ることになったのである。ロシアやカナダは日本に公式に同調し、米国、豪州やニュージーランドの理解を得たうえ、温暖化の進展に悩む島嶼国の中に「京都議定書だけでは問題の解決にならない、新興途上国も努力すべきだ」という思いを強める契機になったのだ。EUが京都議定書延長を主張する裏には、排出量取引制度を世界に広める目的が潜んでいるということは、交渉団の常識である。そうした不純な動機を裏に持ちながら、表面をきれいごとに包むEUの「大人の外交術」が、日本の書生っぽい正論外交にしてやられるという不手際を犯してしまったことが、今回のCOP17に至るまでの経緯である。

 COP17では、既に日本(やロシア、カナダ)が京都議定書の第二約束期間にはコミットしないという立場は所与のものとして受け止められており、どの国からも批判はない。むしろ第一約束期間の数値目標が達成できないという状況のために京都議定書からの正式脱退を示唆して、国際NGOから大きな批判を浴びたカナダに比べ、震災があったにもかかわらず、海外から排出権を購入してまで第一約束期間の目標を遵守しようとしている日本の真面目さが際立っているくらいだ。

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著者

澤 昭裕(さわ・あきひろ)

国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

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