暗雲漂うアパート経営の未来
承前。“ゴミ溜め部屋”問題が一件落着してから3カ月アジア放浪に出立。帰国後、築42年の△△ハイムの将来計画を考えた。次の海外放浪の出発予定日まで1カ月半で道筋をつけないと安心して放浪できない。
業界関係者との雑談やインターネットで周辺地域の不動産市場を調べた結果、△△ハイムは早々に解体するのが最善策と結論。
“30年一括借上げ”業者のローラー営業作戦で新規賃貸物件は急増中。特に元農家の大地主によるマンションが建設ラッシュ。数年後には制度変更により“生産緑地”が大量に宅地化される。総じて家賃単価は近年横這い傾向。
周辺の築40年前後の老朽木造アパートの空室率は凡そ50%。住人が退去するとリニューアル費用に最低数十万円は必要。老朽木造1Kタイプの賃料はせいぜい4万円。入居者を新規募集するメリットがない。
老朽物件への入居希望者は(1)独居老人、(2)生活保護受給者、(3)職業不詳不定という社会的弱者ばかりという。現に△△ハイムの住人も7人中6人が上記3つに該当した。
アパートを新築したら“負の遺産”?
△△ハイムを解体して新築しても長期安定収益は期待薄だ。親戚や知人の大家さんの話を総合すると、ローン金利返済、管理会社への支払い、大規模修繕引当金などのコストを差し引くと大家の手取り収入は「部屋数×家賃×30%」というのが新築後10年間の実状らしい。
立地条件の劣る大家さんは「10部屋のアパートを新築したけど、過去5年間の実際の手取り収入は2部屋分もないよ」と嘆息していた。
大家の究極の厄災“立退料”
築45年となる『2年半後のX月末(Xデー)までに住人7人全員退去』を目標とした。
ネット検索すると『老朽化による解体を理由』として立退き要求する場合は家賃6カ月分~10カ月分相当の立退料がフツウのようだ。民法上、居住権が保護されており、ケースバイケースで個別対応となり合理的計算方法は存在しない。
近隣の事例では、ワンルームマンションを解体する時に大家が一律50万円の立退料を住人に提示して、居座る住人には割増を払った。
ある知人は最後まで居座った住人1人だけでも弁護士費用込みで200万円を出費、立退き費用総計は400万円超となった。近隣の立退騒動の事例は枚挙にいとまがない。
地上げ屋による強引な退去要求を拒んでいた家賃2万円のアパートの独居老人が人権団体に駆け込んで75万円の立退き補償金を勝ち取ったとTVで紹介されていた。
仮に家賃8カ月分で△△ハイムの住民7人が立退きに同意しても250万円もの大金が必要となる。
定期賃貸借契約は救いの神か
あれやこれや調べていたら国土交通省ホームページの『定期賃貸借契約標準契約書』を発見。
あらかじめ賃貸借期限を明記した“定期”賃貸借契約では借主は“無条件”(一切の立退料を要求することなく)で期限日までに立退く義務がある。立退料地獄に一条の光が指してきた。
△△ハイムの賃貸契約は7人の入居者を紹介した不動産屋がそれぞれ作成しており書式は異なるが、すべて旧来のいわゆる“不定期”賃貸借契約である。現行契約の満了日を以て不定期賃貸契約に切替えることに住人が同意すれば立退料は不要となる。
契約変更は短期決戦で
△△ハイムの住人7人の賃貸契約満了日はバラバラだ。満了日到来を待って順番に定期賃貸契約へ切り替えると1年以上の長期戦だ。途中で誰かが定期賃貸契約を拒否すれば未更改の住人も同調する恐れがある。