さよなら「貧農史観」

2011年12月26日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

日本の農業の未来を見据えた時、必ず問題視されるのが農家数の減少と後継者不足だ。
多くの人は、その理由を「農業は儲からないからだ」と感じている。
それも一理あるが、それだけではないと筆者は言う。農家の子供が継がない本当の理由とは何か。

 2010年の世界農林業センサスによれば、農業就業人口は260万6000人、平均年齢は65.8歳だという。5年前に比べて74万7000人(22.3%)の減少となった。さらに、新規就農者数は2010年は5万4570人で、うち39歳以下は1万3150人に過ぎない。多くの人々はそれらを「問題」として捉え、農家数の減少や後継者が少ない理由を、「農業が儲からないからだ」と思っている。果たして本当にそうなのだろうか。

就業人口でなく経営者数を問え

 我が国の農業就業人口のピークは1960年の1454万人であり、当時の農業就業人口の比率は30.2%もあった。この農業就業人口の減少は、農家や日本にとって不幸な出来事だったのだろうか。ちなみに、他の先進国で農家が人口に占める割合は、英国0.8%、米国0.9%、ドイツ1.0%である。それに対して日本は1.6%と他の先進国よりはるかに農家の比率が高く、減少率も少ないのだ。農家比率の減少とは産業が成長した先進国である証しに過ぎず、農業自体の衰退を示しているわけではない。むしろ、日本ではまだ農家の数が多すぎると見るべきなのである。

 「機械化貧乏」という言葉を聞いたことがあるはずだ。我が国で稲作農業の機械化が飛躍的に進んだ昭和40年代から50年代にかけて、「農家は機械を買わされて、借金返済のために男は家族を残して出稼ぎに行く」などと言われた。いわゆる「機械化貧乏論」である。

 しかし、農業機械化によって生じる余剰時間を使い、農家は兼業という形で農業以外の仕事で収入を増やすすべを得た。農業機械は日本の農家あるいは農村に「革新」をもたらしたのである。それが過剰な農業就業人口を産業労働者に変え日本の経済発展の条件を作り、農家と農村を豊かにした。“機械化兼業”という新しい暮らし方を選択することで、我が国の農家はそれ以前とは全く異なる存在になったのである。

 平均65.8歳という農家の高齢化がしばしば問題にされる。だが、それは高齢者でも仕事が続けられるためではないか。もとより彼らの農業は趣味的なものであり、農業の中での金額的シェアは極めて小さい。

 ところが、“機械化兼業”という農家のライフスタイルは既に変化し始めている。農業機械の出荷額の推移を見ると、1985年の7549億円をピークに2010年には4544億円まで減少した。農業機械業界のかつての顧客たちも世代交代とともに兼業で実現した趣味の農業を止め始めているからだ。

 一方、事業として農業に取り組む能力を持った若い農業者は確実に育っている。問われるべきは労働力としての農業就業人口の数ではなく、農業の経営主体としての農業経営者の数やその資質を持った若者の数なのだ。

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