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2012年2月13日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、東京証券部、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務める。11年からフリーに。熊本学園大学招聘教授。近著に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)。

移民は「受け入れてあげるもの」という感覚の日本人は少なくない。
だが、その感覚はもはや古い。ドイツに向かうトルコ人移民は減少し始めている。
一方日本では、様々な職場で働く外国人が増えているが、議論すらできない。
このまま状況を放置すれば、いずれ大きな社会不安となって問題が顕在化するだろう。

 昨年7月、ノルウェーの首都オスロ近郊で、残忍な乱射殺人事件が起きた。外国人移民排斥を主張する男の犯行だった。この事件を報じる日本のメディアの論調は、移民政策の負の側面を強調するものが目立った。欧州諸国ではこの事件によるショックが大きかったが、移民政策の見直しといった議論にはなっていない。

 欧州諸国の主要都市は、人口の2割が外国人というケースが多く、外国人を排斥していては、足下の経済も、国としての機能も果たせないところまできている。人口の少ない北欧諸国はなおさらだ。

 欧州の移民先進国であるドイツも、長年、移民による社会不安が声高に叫ばれてきた。1970年前後の経済成長期に工場労働やごみ収集などの単純作業の人手不足を補う目的で、トルコなどから大量の移民を受け入れたことがきっかけだった。年間に50万人以上が増加した。

 移民が増えることで外国人居住地区などが出来上がり、これが社会不安の種になった。これに対してドイツでは、政府を挙げてドイツ語教育の徹底に取り組むなど積極的な「移民統合政策」を進め、移民をドイツ人として受け入れるための社会基盤を整備していった。

 80年代後半から90年代前半にかけて、再び移民ブームが起きる。毎年60万~80万人の移民が増える状態が続いた。EU(欧州連合)の市場・通貨統合やEU圏が東欧に拡大していく時期に、ドイツが大きく輸出を増やすことができた一因が、この移民受け入れによるマンパワーの供給だったことは明らかだ。

 ドイツの人口は2009年末で8190万人だが、このうち移民系の人口は1570万人に達した。さらに外国人が669万人おり、合わせると人口の27%に及ぶ。これはドイツに限ったことではなく欧州に共通した傾向だ。 ところが、そんな移民大国のドイツで異変が起きている。移民の流入が減っているのだ。とくに、かつてドイツへの移民の中心だったトルコ人の減少が目立つ。EU統合の経済効果もあり、外縁部であるトルコなども経済が大きく成長した。01年から11年の10年間にトルコの名目GDPは1666億トルコリラから1兆1051億トルコリラへと6.6倍になった。この間、ドイツも成長したが、名目GDPは2兆475億ユーロから2兆4768億ユーロへと1.2倍に過ぎなかった。

 つまり、ドイツに来るよりも、トルコにいる方が、経済成長に乗るチャンスが大きかった、ということなのだ。移民の多くは経済的な動機や住環境など多様な理由で居住国を移すが、ドイツでの生活が外国人にとって相対的に魅力的でなくなっているということなのだろうか。

 ドイツへの移民は、トルコから、セルビアなど旧ユーゴスラビア出身者へと変わり、最近はルーマニアやウクライナといったより経済力の弱い国の出身者になっている。それでも08年と09年は「入国者」よりも「出国者」の方が多い、純減状態が続いている。

 ドイツは欧州諸国の中でも、税金負担が大きいことで知られる。北欧型の高福祉高負担に近い体系となっているため、低所得者でも税負担は大きい。教育費が安いなどメリットを強調しているが、外国人移民にとって魅力的と映らなくなっているのだろう。

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