2024年11月22日(金)

復活のキーワード

2012年2月13日

 高額所得者の間でもドイツでの税負担の大きさに不満が高まっている。統計によれば、スイスに移住したドイツ人は02年にはおよそ1万人だったものが、08年には3万人に達したという。

移民論議から逃げる日本の政治家たち

 さて、日本の話に移ろう。

 03年、月刊誌『VOICE』に「1000万人移民受け入れ構想~日本を『憧れの国』にしたい。民主党若手の共同提案」という記事が載った。名前を連ねているのは、細野豪志、古川元久、松本剛明、大塚耕平、松井孝治、浅尾慶一郎の各氏。9年後のいま、民主党は与党であり、みんなの党へと移った浅尾氏を除いて、皆、大臣や副大臣など政権の中枢を担う立場になった。

 ところが、今はだれも「移民」について口に出そうとしない。少子化問題に解決のメドが付いたわけでもなく、年金財政に支障をきたすなど、その影響は深刻さを増しているにもかかわらずだ。

 「1000万人」という数字が衝撃的だったこともあり、国民の猛烈な反発を食ったためだろう。外国人参政権問題と絡めて右翼に執拗に攻撃された議員もいる。日本では「移民論議」は事実上タブーになっている。

 政権交代で大臣となった民主党の当時の若手の1人に、なぜ移民問題を政策として掲げないのか、と聞いたことがある。すると2つの理由が返ってきた。「国民のコンセンサスが得られない」、そして「今から移民に着手しても間に合わない」というのだ。

 後者については、ドイツの例をみれば分かる通り、移民を受け入れる決断をしても、周辺国が経済的に成長を始めると、なかなか人材が移住してこない。とくに優秀な人材は自国を離れなくなる。高い成長率を誇るアジアから移民を受け入れようにも、優秀な人材は日本に見向きもしなくなる。

 前者については、政府が国民のコンセンサスを得るための努力をしているようには思えない。人口が本格的に減り始める中で、成長を諦めた国として日本国民は貧しさを共有していく、そんなコンセンサスはあるというのだろうか。

 自動車向けなど部品産業が集積したある地方都市。小さなショッピングモールにあるハンバーガーショップは、外国人が目に付く。店員ではない。客の多くが、周囲の工場で働く日系ブラジル人やその子弟、日本人とのハーフの子どもを連れたフィリピン人女性など。この地域ではもはや日常の風景になっている。いわば“内なる国際化”は先へ先へと進んでいるのだ。

 下請け工場の工員や大規模農家での農作業はもはや研修生などとして受け入れている外国人なしには成り立たない。ところが社会的なインフラは未整備のままだ。

 結婚して子どもが生まれ、就学年齢になってもなかなか日本の公立小学校に通わない。「学校側も受け入れ体制の整備に力を注いでいるが、手が回らない」と県の教育委員会関係者は言う。

 移民を受け入れる制度や社会的なインフラをきちんと整備しなければどうなるか。80年代にドイツが直面したような社会不安を経験しなければならなくなるだろう。欧州の失敗を日本で繰り返さないためにも、移民先進国の歴史と現在の取り組みを調査・分析し、移民受け入れに向けた冷静な議論を行うことが必要だろう。

◆WEDGE2012年2月号より


 




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