中国 覇権への躓き

2019年8月21日

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福田 円 (ふくだ・まどか)

法政大学法学部教授

1980年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。主な著書に、『現代中国外交の六十年』(共著、慶應義塾大学出版会、2011年)、『日中関係史 1972-2012 Ⅰ政治』(共著、東京大学出版会、2012年)、『中国外交と台湾 「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年)などがあり、 『中国外交と台湾 「一つの中国」原則の起源』  で「第25回アジア・太平洋賞特別賞」受賞。

台湾総統選への動向が注目される柯文哲・台北市長 (EPA=JIJI)

 台湾では、2020年1月の総統選挙に向けて、二大政党である与党・民主進歩党と中国国民党がそれぞれ候補者を選出した。

 今年初めの時点では、現職の蔡英文の再選は絶望的だと見られた。逆に、18年11月の統一地方選挙で勢いを取り戻した国民党は、複数の有力者が候補に名乗りを上げ、政権交代をと息巻いた。ところが、この半年間で蔡英文はじわじわと支持を取り戻して、民進党候補者の座を勝ち取り、最近の世論調査では国民党候補者となった韓国瑜よりも優勢だという結果も出ている。

 このような状況は、蔡英文が自力で勝ち取ったものではない。中国の習近平政権は、独立志向の強い民進党から親中色の強い国民党への政権交代を望んでいたが、その戦略に二つの誤算が生じたことが大きいと言えよう。

 19年1月2日、習近平国家主席は対台湾政策に関する重要講話を行い、自身の政策方針となる5項目(以下、「習五点」)を打ち出した。第一の誤算は、これへの台湾民意の反発が、思いの外激しかったことである。

 習近平の重要講話は、胡錦濤前政権期の「独立阻止」から自身の「統一促進」へと、方針の転換を明確に示すものであった。具体的には、従来は「92年コンセンサス」について、国民党との間で「一つの中国」に関する解釈の相違があることをあえて曖昧にしたまま、互いがその「一つの中国」の前提に立つことをうたってきた。その「92年コンセンサス」に、「国家の統一を求めて共に努力する」との条件を付した。また、「一国二制度」や「武力の使用」など、胡錦濤前政権が台湾民意の反発を恐れて極力使用を避けてきた文言も盛り込んだ。

 これに対して、蔡英文は「一国二制度」は受け入れられないと主張する演説を直ちに発表し、その断固たる姿勢は蔡英文の支持率を引き上げる出発点となった。他方で、国民党の主要政治家は、「一国二制度」などに対する立場を問われ、説明に窮した。

 習近平がこのタイミングで蔡英文政権・民進党に塩を送り、国民党に冷や水を浴びせるような演説を行ったのはなぜか。二つの説明が可能であろう。

 一つは、17年に開催された第十九回党大会以降自信を深めた習近平は、もはや台湾の政局に配慮する必要はないと考えており、自身が促進すべき「統一」へと向けた対台湾政策を表明したのだという見方である。もう一つは、国民党が政権を奪還した後を見越して、「一つの中国」に関してより高いハードルを設定したという見方である。いずれにしても、習近平は蔡英文がこれほど勢いを取り戻すとは考えていなかったのではないかと思われる。

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