WEDGE REPORT

2012年2月16日

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2/16に異例の紛糾を続けた文科省・放射線審議会がようやく決着。4月開始の旗を下ろせない厚労省に歩み寄らざるを得なかった形だ。一見、国民にとってよいことに感じられるこの規制強化の弊害についてレポートしたWEDGE3月号の記事を急ぎ無料公開する。

 4月から食品中の放射性物質の新基準値が導入される予定だ。

新基準値は、現在採用されている暫定規制値よりもかなり厳しい数値となる
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 現在の暫定規制値で許容している食品からの内部被ばく線量を、最大5mSv(ミリシーベルト)/年から1mSv/年に引き下げることに伴う基準値の強化である(表参照)。

 福島第一原発事故以降、暫定規制値を超えた食品が検出されるたびに「食の安全が脅かされている」と報道されてきた。基準値を厳しくすることで、「消費者のより一層の安全・安心を」と厚生労働省は説明するが、実は流通する食品が安全になるとは限らず、弊害さえ懸念されている。

 京都医療科学大学教授・大野和子氏は「新基準値の一番の問題点は、検査体制を整えることが非常に困難であること」と指摘する。

 食品中の放射性セシウムを正確に測定するにはゲルマニウム(Ge)半導体検出器が必要だが、1500万円超と高価だ。全国に216台あるが、福島以外の多くの都道府県には数台ずつしかない。検査に30分以上かかるため、精度は落ちるがスピードが速い、ヨウ化カリウム(NaI)スペクトロメータ(300万円程度)やサーベイメータ(数十万円~)を用いた簡易検査が普及している。規制値の半分を超せば、Ge検出器で精密検査を行う。

 今回の規制強化で、サーベイメータは使えなくなる。多くのスペクトロメータは使えるが、低い数値を測るため、測定時間が2倍、3倍に伸び、校正などより丁寧な取扱いが求められることになる。「検査体制がパンクするのは目に見えている」(ある農業関係者)と悲鳴があがる。

 科学ライターの松永和紀氏も、「基準値強化で、かえって検査の効率が下がり、測定できるサンプル数が少なくなれば以前なら見つけられた汚染度合いの高い食品がすり抜けて流通するかもしれない」と危惧する。

 1月末時点での累計検査数約9万6000件のうち牛肉が約6万件を占める。検査の網にかからない自家消費や、暫定規制値超えが目立つ原木キノコ類、生物濃縮が懸念される水産物などへ検査資源の配分を最適化すべきだが、Ge検出器の利用は全頭検査の牛肉に集中している。検査業務を各都道府県に委任する厚労省は「国で一律に管理するのは困難」「Ge検出器の補助の詳細は未定」と、音頭をとらない。

新基準値施行は政治主導の産物

 新基準値の施行には、放射線防護の技術的基準を検討する文部科学省・放射線審議会の答申が必要だ。しかし、何度会議を開いても答申が定まらない異常事態に陥った。

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