中国が中国である限り
真の民主はありえない(後篇)


平野 聡 (ひらの・さとし)  東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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さらに、そもそも中国において、自由で民主的な言論と政治批判を許すと一体どのようなことになるのかを考えてみなければならない。

共産党に「正しさ」を託しても信頼できない

 少なくとも、共産党の厳しい言論統制や民主化要求への圧殺にもかかわらず、現実に少なくない中国人が言論の自由を通じた民主的な政策決定を欲していることは間違いないだろう。中国社会に横たわる諸問題の解決を共産党の「正しさ」に託していたはずが、何時まで経っても解決するどころか事態が一層悪化するのであれば、その「正しさ」に疑問を抱き批判を上げようとするのは当然のことである。既に昨年夏、その生々しい一端が高速鉄道事故を契機としてあらわになったのは記憶に新しい。

 また、ネットの規制をかいくぐって現れる議論(恐らく在外の中国人によるものであろう)を見るにつけ、台湾問題を解決するためにも中国大陸におけるリベラル・デモクラシーの実現は喫緊の課題だと考える人は少なくないらしい。台湾社会が大きく経済的に中国に依存しながらも政治的には現状維持を望むのは、中国の政治社会が抑圧的であり、法治ではなく人治=恣意の支配であり、国家・中央至上の発想のもと地域・個の多様性は往々にして顧みられないことを見抜いているからであり、しかも台湾人はそのような政治手法を共有する国民党独裁の辛酸を1980年代まで嘗めた記憶を未だに根強く持っている。

中国自身の政治改革こそ必要

 要するに、中国共産党は台湾社会に対して、経済的利益以上のものを何一つ提示出来ていないのである。したがって、中国の側が所謂「中華民族の夢としての台湾統一」を意識するのであれば、中国自身の政治改革こそ喫緊の課題であるということになる。

 さらに、そもそも中国には、共産党の腐敗と圧政を憎むあまり、既にリベラル・デモクラシー(孫文の「三民主義」思想にいう「憲政」段階)を実現した「台湾にある中華民国」が「大陸光復」を実現することを熱望する人々が(多寡は不明だが)確実にいる。YouTubeで中華民国国歌「三民主義」を再生させると、コメント欄には簡体字で書き込まれた「三民主義・中華民国は台湾人民だけのものではないはずだ。君たち台湾人は、中華民国を欲する大陸人民がいることを忘れないでもらいたい!」という悲痛な叫びすら見られる有様である。

極点に達する漢人と少数民族

 しかし中国の国家統一問題は、単に台湾のみを対象としたものではない。中華人民共和国の圧政に長年来あえぎ、現状への問題意識を表明するだけで「国外勢力の影響を受けた分裂主義分子」として厳しく弾圧され続けている内陸アジアの少数民族をめぐる問題でもある。

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著者

平野 聡(ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

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