中島厚志が読み解く「激動の経済」

2012年2月29日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 税と社会保障の一体改革に伴う消費税増税が賛否両論を呼び、政治的な争点となっている。少子高齢化で社会保障が今後とも増える中で、社会保障の充実や財政赤字拡大抑止も勘案すれば消費税増税が不可欠との立場がある一方、増税の前に歳出の無駄の見直しが不可欠とする立場もある。

 両論とも一理あるが、国家予算財源のほぼ半分を税収等で賄えずに国債に頼っていることや、公的債務残高のGDP比が主要国中最も高く、さらに高まる方向にあることなどを見ると、日本の財政がますます健全で正常といえる状態から遠ざかっていることは確かだ。

終戦後の財政健全化の道は厳しかった

図1 我が国の政府債務残高の名目GDP等に対する推移
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 近年の日本の財政状態の変調を如実に示すのが、明治23年以降の政府債務残高比率(対名目GDP比)を示したグラフだ(図1)。そこでは、現在の比率が太平洋戦争時を超える、過去120年間で最悪の水準に達していることが見て取れる。

 日本の政府債務残高比率が主要国と比べて図抜けて高いことは、良く指摘されるところだ。しかし、時系列で、しかも120年にわたっての日本の政府債務残高比率を示すグラフは、主要国との比較とは違う観点で現在の財政赤字の深刻さを明らかにしている。

 しかも、注目される点は、足元での比率が深刻な水準になっていることばかりではない。戦後になって比率が急速に縮小した展開にもある。そこでは、財政破綻は起きずに財政再建が実現している。

 こう述べると、政府債務残高が高水準になっても問題があまりなく、やり様で何とかなるようにも聞こえるが、決してそうではない。財政破綻はなくとも、戦後の激しい物価上昇やドッジラインと呼ばれる財政金融引き締め政策などが財政破綻と同じ効果を果たしたのが歴史的事実だ。

 それは、個人の金融資産と所得が大きく目減り、毀損されることで巨額の負債を抱えた国家財政が健全化されたという事実であり、財政が再建されるにはいずれにしろ個人の極めて高い代償が伴うと言い換えることもできる。

 たとえば、激しい物価上昇は、戦争による生産設備の破壊と戦後の復興需要を背景とした日銀券の増発、あるいは戦時中行われていた物価統制の効力がなくなったことなどで生じている。そして、昭和9-11年(1934-36年)平均の消費者物価(東京)を1とすると、昭和28年(1953年)平均では286.2倍に達してしまった(旧総理府統計局統計)。

 この激しい物価上昇で、戦前や戦争中発行された国債の多くを購入した個人層は、保有する国債の実質的価値が99.7%なくなってしまったことになる。

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