安保激変

2012年3月15日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター主任研究員

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 ワシントンのシンクタンクは移り変わりが激しい世界だ。その時々に米政府が何に関心を持っているかで、シンクタンクのリサーチにも流行り廃れが生まれる。その典型的な例が中東情勢だろう。中東情勢は、2001年9月11日のアル・カーイダによるテロ事件が起こるまで、アラビアやヘブライ語、ペルシャ語など地域の言語を操る限られた専門家の間でのみ議論されることが多かった。だがテロ事件以降、一気に「旬」なトピックになった。対して、ヨーロッパ研究への関心は、ソ連崩壊後、急速にNATOが拡大した1990年代以降、低下している。ラテン・アメリカ研究やアフリカ研究も、米国が関心を持つような大事件が起きれば注目されるが、基本的には「旬」になりにくい分野である。

ここ数年の「旬」は中国研究

 アジアに目を移すと、ここ数年の「旬」はなんと言っても中国研究や米中関係の研究だろう。

 国内問題だけでも、増え続ける人口、成長を続ける経済とそれに伴う軍事費の膨張や格差の拡大、指導部の世代交代の影響、エネルギー問題……と研究テーマには事欠かない。これに南シナ海問題や、ラテン・アメリカやアフリカでの積極的な資源外交、台湾、など外交・安全保障上の問題も加えると、中国を題材に研究を続ける限り、当面の間、ネタには困らないだろうと思わせる。6者協議の膠着で一旦、勢いがなくなった朝鮮半島情勢研究も、金正日主席の死去、金正雲氏への世代交代、最近の米朝協議の再開などで、ここ数ヶ月、再び勢いを取り戻している。

 ところで、何が「旬」かはどのようにして分かるのか? 先ず第一は、ある問題に関するイベント(シンポジウムやパネル・ディスカッションなど)がどのくらいの頻度で行われているかだ。当たり前だが、流行の問題を扱うイベントは、頻繁に開かれるだけでなく、常にそれなりに混雑している。第二に、聴衆にその道の専門家やその国出身のワシントンDC在住者以外の人間がどの位いるかどうか。例えば、米韓関係に関するセミナーがあったとしよう。これがいくら混雑していても、聴衆の半分以上がDC近郊に住んでいる韓国人や米韓問題の専門家である場合、関係者以外の人の間では余り関心がもたれていない、ということになる。

 そして第三の目安が、どのような問題の専門家(いわゆる主任研究員・上級研究員)をシンクタンクが抱えているか、である。日本ではなかなか理解されにくいことだが、米国のシンクタンクで(小職も含め)主任研究員と呼ばれる人々は、個別事業主のようなものだ。シンクタンクで働き続けるためには、自分がそのシンクタンクにとって「有益な」存在であることを示す必要がある。その目安が、自分の研究・執筆活動を支援してくれるスポンサーをどれだけ獲得できるかということだ。スポンサーには研究金を助成する財団、個人、企業、政府機関など色々あるが、これらのスポンサーから助成金・寄付・委託研究費などから構成される一定レベルの金額を継続的に獲得することが必要になる。いわゆる「ファンドレイジング」と言われている行為だ。

薄れる日本の存在感

 シンクタンクという組織の中で上に行けばいくほど、この「ファンドレイジング力」が重要になる。大手シンクタンクの幹部の仕事の大半はファンドレイジングに費やされているといっても過言ではない。そして、助成金や寄付、研究委託をする側の判断の目安が「今、米国の政策にとって重要な問題か」である場合が多いのだ。つまり、「政策的に重要と見なされている問題=旬である」問題を研究するほうがファンドレイジングがし易く、人員の増員も容易だということだ。逆に、「旬」でなくなってしまった研究領域については、最低限の人員を確保するのが精一杯、場合によってはそれすら覚束ない場合もある。

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