チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年3月19日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

中国社会でいま、大きなムーブメントが起ころうとしている。
共産党幹部が君臨し、専横の限りを尽くした広東省烏坎村。ここで今年1月、村民運動をまとめた代表者が新たな書記に就任するという、前代未聞の「政治劇」が展開された。
共産党を下から突き動かす「民」の力は日増しに高まっている。
日本は、変革の担い手と手を結び、中国の民主化に向けた戦略的な支援をすべきだ。

*この記事は、WEDGE4月号のWEDGE OPINIONの転載です。

 中国南部・広東省の村は2011年9月以降、中国社会問題の「主役」として脚光を浴びた。村では1970年に就任した地元の共産党支部書記がトップとして君臨し続け、専横の限りを尽くした。70年と言えば、毛沢東の文化大革命で大都市は政治運動一色だった頃である。それから実に41年が経過した11年9月、この独裁と腐敗に怒った村民が大規模な抗議を起こし、開明派・汪洋広東省共産党委員会書記の指揮の下、ついに今年1月には村民運動をまとめた代表が、新たな書記に就任するという前代未聞の「政治劇」が展開されたのである。

 筆者は、2月11日と3月3日、それぞれ村民代表と村民委員会主任(村長)を決める直接選挙が行われた烏坎村に入った。そこには果たして、民主的手法で民の声を政治に反映させる「統治モデル」が確立しているのか─。

投票用紙を知らない烏坎村民たち

 『烏坎!烏坎!』という、村民たちの「上訪」(陳情)を描いたドキュメンタリーDVDがある。ここには、1000人以上の村民が警官と衝突し、一部が派出所を襲撃、パトカーを破壊した昨年9月のデモや、村を管轄する上部政府の陸豊市庁舎を目指し、4000人以上が練り歩いた昨年11月の陳情の様子が克明に記録されている。

 大規模抗議の発端は、(1)独裁を続けた書記が、村の所有する土地使用権を村民に無断で業者に売却した(2)書記は、直接選挙で選ばれるはずの村長ら村民委幹部を、自分の配下で固めていたからだった。

 筆者を車に乗せ、売却された土地を見せて回った村の夫婦は怒りが収まらない。「あれを見てみろ。立派なリゾート施設があるだろ。あれはもともと村の土地だったが、われわれの知らない間に売られてしまった。売却が始まった90年代に比べ、土地の値段は100倍以上に値上がりしたが、補償金をもらっていない」。

 土地私有が認められていない中国では、都市中心部の土地は国の所有だが、農村と都市郊外の土地は農民の集団所有で、その土地は農村の自治組織・村民委員会が管理することになっている。さらに中国の農村では90年代、「草の根民主」の観点から村民委主任らを選ぶ直接選挙が本格化した。直接選挙が行われても、共産党の上部組織が村長選びに介入するなど、「民主」は見せ掛けにすぎないとの声も強いが、烏坎村のケースはもっとひどく、村民たちは「投票用紙など見たことがない」と証言。土地を管理する村民委に村民の声が反映されず、同委が書記に私物化されたため、深刻な土地問題に発展したという構図だ。

 “無知”な烏坎村民を目覚めさせたのが、広東省の大都市に出稼ぎに行って戻ってきた若者たちだった。彼らは逆境の中で「自分の権利とは何か」という都会では当たり前の論理を身に付けていた。

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