米海軍研究所のProceedings誌2012年4月号で、米海軍大学のToshi YoshiharaとJames R. Holme両教授が、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力は恐れるに足りない、また、日本の自衛隊による沖縄列島上の軍事力整備が極めて重要だ、と説いています。
すなわち、中国海軍にとって沖縄は、黄海・東シナ海から太平洋へ抜ける際に必ず通過せざるを得ない場所だ。だからこそ「価値の乏しい小さな島々」である尖閣諸島が台湾海峡紛争で重要な意味を持ってくる。
ところが米国と日本は、これら沖縄の島々にまさに中国に向けたA2/AD能力を配備することができる。昨年11月、九州・沖縄方面で実施した「統合実働演習」で、陸自は奄美大島に「88式地対艦誘導弾」を展開したが、これは日本にとって戦略的に重要な南方防衛の強化につながる。なぜなら「陸地の奥から洋上を狙える88式なら、琉球列島の全海域すべてをカバーできる」ので、「これが同地域にうまく配備されれば、東シナ海の大半が中国海軍艦艇(潜水艦以外)にとって航行不能地帯になる」からだ。それに88式はトラック可搬型なので、掩蔽壕やトンネルに入れたりすることで、中国側の攻撃を困難にすることができる。
これに対して中国軍が必要な対抗手段をとろうとすると、幅600マイルに及ぶ前線を開かねばならなくなり、このために動員する空戦力や弾道弾、誘導弾は中国軍の消耗を早める。しかも大量動員にもかかわらず、結果ははかばかしいものにはならない。他方、確実を狙って上陸部隊を繰り出せば、待ち構えている米国や日本の潜水艦の餌食になってしまう。
このように、琉球弧に地対艦誘導弾等を十分配備することで、有事には中国海軍を沿海域に閉じ込めることができる。つまり、中国が米軍に対してA2/AD能力を発揮する前に、日米同盟のA2/AD能力が中国海軍艦船の動きを封じることができる。従って、中国のA2/AD能力を恐れるに足らない、と言っています。
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論文の題名は「米国流の非対称戦」ですが、読み進んでいくと、海上勢力の優位を活かせば、陸から海へ打ち出そうとする者をごく限定的な対処で掣肘することができるという意味だとわかります。要するに、日本や米国は、中国の海洋進出を「非対称」的に限定的な布陣で掣肘できるということです。海軍力の大増強に勤しむ中国を、実は低廉軽微な装備で阻むことができるのだ、とする皮肉をこめた題名と言えるでしょう。