プーチン再就任
やはり厳しい北方領土問題


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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5月7日、ロシアのプーチン大統領が再び誕生した。2000年から2008年(4年、2期)に大統領職を務めたプーチンは、その後、4年間、メドヴェージェフ氏が大統領を担う中、首相としてかなりの実権を握り続けてきた。だが、また大統領に就任したことで、名実ともに、プーチン氏はロシアの最高権力を掌握したといってよい。前政権まで、大統領の任期は、1期4年で連続2期までだったが、メドヴェージェフ政権時代に、任期が6年に引き伸ばされたことにより、プーチンは今後、最大12年間も政権を握り続ける可能性があるとみられている。つまりプーチンの対日政策が、今後当面の日露関係や北方領土問題の帰趨を決するといえるのである。

領土問題 日露間の「温度差」

 3月の拙稿「プーチン返り咲き 緊張の中露と北方領土の行方」で記したように、プーチンは土壇場で北方2島の返還可能性に言及し、対日関係の改善・深化の意思を表明したかに見えたが、実際は日本にとってそんなに甘い話ではないことは肝に銘じるべきである。2島返還ですら容易でない中、仮に2島が日本に返還されたとしても、主権はロシアに残る可能性もあるという声もあるほどだ(袴田茂樹「プーチンが大統領になっても領土問題は解決できない」(日経ビジネスオンライン)。

 他方、ロシア側は日本がプーチン新政権に対し、積極的な外交攻勢をかけようとしていると見ているようだ。

 ロシアメディアは、日本がロシアとの関係深化を進めようとしている証拠として、日本の高官らの訪ロが、プーチン氏就任の直後から相次いで予定されていることを大きく報じている。具体的には、元外相で現在、与党・民主党の政調会長である前原誠司氏の4月29日から5月4日までのモスクワ訪問、そして、プーチン氏と親しいとされる森喜朗元首相が特使として5月末にロシアに派遣される予定となったことである。このいわば大物が相次いでロシアを訪問することで、日本としては北方領土問題を中心とした日ロ関係の問題を前進させたいところだが、日ロ間の温度差があることは否めない。

前原氏訪露 互いの主張は変わらず

 ここで、特に注目されているのが森氏の派遣である。そもそも、儀礼的な外交を例外とし、野党議員が特使を務めるのは異例のことだが、この決定は野田佳彦首相の強いイニシアティブに基づいている。前原氏と森氏の訪ロは「セット・プラン」と考えてよさそうだ。何故なら、前原氏は訪ロ直前の4月26日に森氏と会談しているからだ。そして、現段階ですでにその一つ目の計画は終了した。

 前原氏はプーチン大統領就任をにらみ、その直前に照準を当てる形で、ロシアの下院議員ら(4月30日)、ナルイシキン下院議長(5月3日)、ラブロフ外相(5月2日)、半国営の天然ガス独占企業「ガスプロム」のメドヴェージェフ副社長(5月3日)らと会談を行った。前原氏としては、来る森氏の訪ロに先駆け、領土問題交渉の環境整備を事前に整えておきたいところだが、実際は難しそうである。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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