2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月17日

 5月8日付の拙稿「日本企業が直面する『黒社会・中国』での新たなリスク』では、いくつかの事例を挙げて民営企業の苦境を書いた。

 今回は「家具王」とも呼ばれ、全国人民代表大会の委員まで務めた馮永明という人物が、執行猶予付きの死刑判決を受けた経緯を紹介しよう。主に、本案件を集中的に取材してきた中国人ジャーナリストに聞いた話を整理した(本人の希望でジャーナリストの名前はA記者とさせていただきたい)。

家具業界中国ナンバーワンの人物

 2011年1月14日、黒龍江省伊春市の裁判所における第一審で、家具業界で中国ナンバーワンの「光明集団」の元法人代表・馮永明が汚職罪で執行猶予付きの死刑判決(=執行猶予期間中に問題がなければ、無期懲役に減刑)を受けた。そのほか、兄の馮開明、馮啓明、弟の馮志明が18年から無期の、娘が3年の懲役刑を言い渡されている。

 「家具王」とも呼ばれ、全国人民代表大会(全人代:日本の国会に相当)の委員まで務めた人物とその一族がこのような末路を送っているのは、一体なぜなのか――。

出張中に突然拘束、そして……

 馮永明は08年9月25日、出張の途中に拘束された。10月9日、捜査当局が馮永明には上場企業利益損失背信罪、虚偽出資罪、出資金持ち逃げ罪、国有資産略奪罪などの容疑がかかっていると発表した。11月1日には、上場企業利益損失背信罪と虚偽出資罪に関して馮永明を逮捕した。

 罪状は、「株式譲渡に乗じて資産隠匿などの手段によって光明集団株式有限公司の株7988万1052.83元の公金を着服した」「個人で企業の株式を支配し山東寧津県聖泉禾実業投資有限公司の株6億6192万1257.62元を略奪した」という内容だ。

 つまり、馮永明は、あわせて8億元に上る巨額の汚職事件の被告人なのである。

 しかし、A記者は取材を進めるなかで、捜査・検察当局の説明にはつじつまの合わない点を数多くみつけた。中国社会科学院公法研究中心秘書長の陳根発はA記者に対し、この案件は「いかにもでっち上げたと見られる事例だ」と話している。

極寒の中を裸で放置、薬物を打つなどの
拷問で自白を強要

 出張中に突然拘束された馮永明は獄中、全国人民代表の遅夙生に弁護人を依頼したいと要求したが、許可されなかった。馮永明が弁護士と接見できたのは、10年7月になってからである。それにもかかわらず、09年9月27日の日付で、「妻・李亜清が林都弁護士事務所に夫の弁護を委託した」という偽造文書が作成されていた。

 馮永明は弁護人を引き受けた浦志強に、拷問を繰り返され自白を強要されていたことを涙で訴えた。


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