安保激変

2012年5月22日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 「五頭の龍」が海を席巻する――中国には人民解放軍海軍とは別に日本の海上保安庁に当たる5つの海上保安機関があり、これらが近年、装備と活動を強化している。

中国の「五龍」と海上保安庁・防衛省の初「顔合わせ」

 中国・浙江省杭州市では先週(5月15日~16日)、「日中高級事務レベル海洋協議」が開催され、中国側から「五龍」も参加し、日本の海上保安庁や防衛省と初めて接点を持った。この協議の設置は昨年12月の日中首脳会談で合意された。初回の会合は日中の海洋関連機関の「顔合わせ」となり、それぞれが業務の体制や内容を紹介し、連絡先を交換した。

 「五龍」と呼ばれるのは、公安部公安辺防海警総隊(海警)、農業部漁業局(漁政)、国土資源部国家海洋局中国海監総隊(海監)、交通運輸部中国海事局(海巡)、海関総署密輸取締警察(海関)の5つの組織である。東シナ海に頻繁に出没する漁業監視船は漁政、海洋監視船は海監に所属している。

 3月21日付けの拙稿「中国が尖閣諸島にこだわる理由」で指摘したように、2010年9月の尖閣沖漁船衝突事件以降、中国の監視船が頻繁にこの海域に出現し、領海も侵犯するなどしている。日本では人民解放軍と中国政府の各部局が一丸となって海洋進出を推進しているというイメージが広がり、監視船も海軍の一部かのようにとらえられがちだが、実際には解放軍と「五龍」の関係は複雑で、同列にして考えることはできない。「五龍」を理解することなしに、中国の海洋進出に適切に対処することはできないのである。

最も主要な法執行機関「海警」

 「五龍」という表現は、海警の教育機関が2007年に出した報告書に現れ、これをアメリカ海軍大学の報告書が引用して広く知られるようになった。とはいえ、「五龍」に関する情報は断片的で、実態についてはわからないことが多い。データがそろっている2007年の時点で、人員は合わせて4万人ほど、保有する船は500トン以下の小型船を中心に500隻ほどであった。その後各組織は人員・装備とも拡充されていると考えられる。これまでにわかっていることを総合すれば、以下のようなものになる。

 まず、英語でコーストガード(沿岸警備隊)と呼ばれるのは海警である。人員は1万人ほどで、護衛や海上での捜査、捜索救難等を任務とし、高速巡視艇を中心とする装備を保有している。日本の海上保安庁やアメリカの沿岸警備隊のカウンターパートとなるのもこの海警である。海警は「五龍」の中でも最も主要な法執行機関といえるだろう。保有する巡視船は250隻ほどで、2011年6月に広東省からシンガポールまで巡視活動を行った海警最大の巡視船「海巡31」(排水量3000トン、最大時速22ノット<約41キロ>)は、ヘリ1機を搭載している。また、海軍からミサイルフリゲートを改造した巡視船の提供も受けている。

漁業管理の「漁政」
海洋利益の保護の「海監」

 漁政は、漁業管理を主任務としている。中国の漁業は技術の向上により急速に成長したが、一方で主要漁場である南シナ海での乱獲を取り締まるとともに、周辺諸国の当局から中国漁船を守ることが必要となった。しかし、漁政は当初1000人規模と人員も少なく、小型船と旧式の装備しかなかったため、十分な漁業保護ができなかった。現在は、海軍の潜水艦救難艦を改造した4500トン級の「漁政311」やヘリを2機搭載可能な「漁政310」を含む150隻程度の監視船を保有し、インドネシアやベトナム、フィリピンなどの漁船や海軍、法執行機関の船に対し、威嚇だけでなく実際に発砲も行っている。

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