2024年4月27日(土)

ルポ・被災農家の「いま」

2012年7月18日

 「ほとんどのお客様は離れることがなかったですし、一時様子見をしていたお客様も、2011年の夏には、ほぼ戻ってきてくれて、今現在(2012年7月)は、逆に新規のお客様が増えている状況です。本当にありがたいことです」

茨城で有機農業に取り組む布施さんご夫婦

 茨城県北部の山間地(常陸太田市大中町)で有機野菜を栽培する布施大樹さん(41歳)は、私にこう切り出した。布施さんは奥様の美木さん(2000年に結婚)とともに、1998年に新規就農者として、この地域に根を下ろす。以来、少量多品目の有機野菜を栽培し、直接消費者に届けるスタイル(産消提携による定期宅配)を軸に農業に取り組んできた。顧客は、地元の常陸太田市や日立市の住民が約半分で、そのほかは東京や神奈川など首都圏の住民である。

覆された思い込み

 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受けて、茨城県産の農産物は全体的に敬遠される傾向にあった。実際、私はこれまで、茨城県で売上げ減少の憂き目にあう多くの農家に話を聞いてきた。そこでは「野菜が二束三文の値段で買い叩かれる」といった悲痛な声ばかりを耳にした。

 ましてや布施さんが作るのは、有機野菜である。有機野菜を求める消費者は、安全・安心に敏感であると言われているだけに、私は、顧客離れで苦しんでいると思い込んでいた。

 その思い込みは、いい意味で覆されたのだった。

 「私は以前からお客様に『有機野菜だから安心ですよね?』と聞かれたら『慣行農業と単純に比較することはできませんよ』と答えていました。自ら『安全・安心』を口にしたことは一度もなかったんですよ」

 布施さんは、慣行農業は、農薬がもたらす環境への影響に不明な部分があり、その点に大きな疑問を感じているが、現在の「適正に使用された」残留農薬の人体へのリスクは限りなくゼロだと認識している。また、有機でも「適正な」栽培管理を行わないと作物が毒素を作ることもあると話す。さらにいえば、「食べる」という行為は、本質的にリスクを負うものであり、そのリスクを安全・安心に置き換えて生産者だけが負うことには違和感を感じている。だからこそ、顧客にそう伝えているのだ。

環境を守る「里山循環型農業」

 布施さんが目指すのは、この地域の特徴を生かしつつ、環境を守りながら土を育て、農産物を栽培する、里山循環型農業である。山の資源は豊富なため、落ち葉を多く集めてたい肥を作り、それを田畑に入れて、農産物を育て上げている。5年前からは、有機農家の仲間や都市部の人たちと、地域の荒れた山を開墾し、落ち葉をたい肥化しながら、きれいにしていく取り組みも行っている。


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