安保激変

2012年8月16日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 尖閣諸島をめぐって日中間の緊張が高まっている。

 直近では、15日午後、尖閣諸島への上陸を目指していた香港の団体「保釣行動委員会」の抗議船が魚釣島に到着し、メンバーら7人が上陸。沖縄県警と第11管区海上保安本部は、入管難民法違反容疑(不法上陸、不法入国)で、この7人を含む抗議船に乗ってきた14人全員を現行犯逮捕した。

 日中両政府とも今年は日中友好40周年を祝って協力関係を深める予定だったが、両国間の相互不信は留まるところを知らず、関係改善を求める声は厳しい批判にかき消されている。石原慎太郎・東京都知事が進める尖閣諸島の購入が実現すれば、中国は活動家や漁船をさらに送り込み、尖閣沖で不測の事態が武力紛争に拡大する可能性も非常に高まるだろう。日中関係は戦後最も深刻な危機にあると考えるべきである。

ロシア、韓国も実効支配を強める

 なぜ、ここまで緊張が高まったのか。言うまでもなく、発端は2010年9月の尖閣沖漁船衝突事件だった。尖閣沖の日本の領海内で不法操業をしていた中国漁船が、逃走中に海上保安庁の巡視船に体当たりしたことからすべては始まった。日本政府は公務執行妨害で漁船の船長を逮捕・送検し、国内法に則って処理を行おうとした。これに対し、中国政府は船長の釈放と謝罪を日本政府に要求し、レアアースの禁輸やフジタの社員を逮捕するというあからさまな報復措置を行った。

 当時の菅政権(以下役職等は当時)は結局中国からの圧力に屈する形で船長を釈放、日本政府はこれを検察の判断による釈放と説明したが、関係者の証言によれば仙谷由人官房長官主導で釈放したのはまず間違いない。政府は事件の一部始終を記録したビデオの公開も拒否し続けた。そして、ビデオの一部が海上保安庁の職員によってYouTube上で公開されると、事件の様子を目の当たりにした国民は改めて日本政府の対応を批判し、中国政府に対する感情も悪化していった。

 問題は日中間だけでは収まらず、日本の弱腰外交に乗じてロシアも北方領土の実効支配を強めるようになった。尖閣沖漁船衝突事件の2カ月後に、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問し、菅直人首相がこれを「許しがたい暴挙」と批判しても、負け犬の遠吠えであった。その後、ロシア高官による北方領土訪問は繰り返された。ロシアはさらに、日本と領土紛争を抱える韓国の国会議員を北方領土に招待し、韓国側もこれを受け入れた。

暗黙の了解に支えられた日中友好40年

 東日本大震災への対応に追われる日本を尻目に、韓国も竹島の実効支配の強化を目指した。周辺海域に海洋科学施設を建設することや竹島への防波堤の設置を決め、政治家の訪問が続いた。そして、日韓関係の悪化が避けられないことを承知で李明博大統領がこの度竹島を訪問したのも、日本政府が中国人船長釈放で見せた弱腰姿勢を見透かされているからである。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る