2024年12月22日(日)

Inside Russia

2012年10月19日

 東京電力福島第一原発事故後初めて、日本メーカーによる原発建設に信を問う国民投票が10月14日、バルト三国の一角、リトアニアで行われた。投票率は事前の予想を覆し、有効投票を超える52%に達した。有権者250万人のうち130万人が投じた結果は、62%が反対と回答、柏崎刈羽や浜岡原発などにある改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)と同型の原発を提案してきた日立製作所の計画に「ノー」を突きつけた。

 さらにリトアニアでは今月28日に定数141の議会選小選挙区の決選投票が行われ、各党の議席数が確定する。原発推進派の与党が下野する見通しが高まっており、原発計画がどうなるかは微妙な情勢にある。

「ロシアの勝利だ…」

 国民投票の開票後、この結果を受け止める政治家から漏れてきたは「ロシアの勝利だ…」という言葉だった。それも、リトアニアではなく隣国ラトビアの閣僚からだ。今回、原発の安全性だけが、焦点になっていたわけではない。クローズアップされたのは、電力をロシアからの天然ガスに頼る依存状態から逃れるために何をすべきか。つまり、バルト国家が一丸となって、資源を武器に意のままにしようとするロシアのエネルギー支配からいかに脱却できるかが問われていた。1990年に“ソ連のくびき”から外れたリトアニア、ラトビア、エストニアの3カ国は、真の独立を果たそうと、最高品質の日の丸原発を国家の基盤にしようとしていたのである。

 ロシアもこの原発計画に手をこまねいて見ていたわけではない。ロシア企業幹部は「日本の原発は危険だ」と警告。リトアニアでは国民投票前に、ロシアが関与したと見られる日立製原発のネガティブキャンペーンも繰り広げられていた。

原発ノーがバルト三国に与えた衝撃

 リトアニアの原発プラント計画を物語る象徴的な言葉は、国民投票の日から一夜明けた15日、隣国ラトビアのアルティス・パブリクス国防相から発せられた。ソ連からの独立後、デンマークの大学で政治学の博士号を取り、その後、政治家に転身した46歳の若きエリートは、ツイッターでこうつぶやいた。

 「バルト国家に原子力発電所を作らせないようにするロシアの願いが、リトアニアの国民投票で勝利を収めたのだ」

 130万キロワットの日立製原発はラトビアとの国境に近いリトアニア北東部ビサギナスに建設予定で、送電網を整備し、ラトビアやエストニアにも供給する計画を描いている。総事業費は68億ユーロ。2021年の稼働を目指し、バルト三国と原発プラント海外初輸出になる日立が共同で出資する運営会社が近く設立されることになっていた。


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