安保激変

2012年10月24日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 沖縄県尖閣諸島の国有化で、日中関係は国交回復後最悪の状況を迎えている。中国各地に広がった反日暴動は沈静化したとはいえ、日中政府間交流だけでなく、経済や学術、文化面での交流にも大きな制限が課されているのが実情である。世界第2位と3位の経済大国間の政治対立が、両国の経済関係のみならず世界経済全体に及ぼす悪影響についても懸念され始めている。しかも、日中双方とも政権の移行を控え、このような不安定な日中関係がいつまで続くのか予測もつかない。

一枚岩ではないアメリカ政府?
中立を保つ姿勢に不満な日本

 尖閣をめぐる日中対立では、アメリカの動きも重要な要素である。アメリカ政府はかねてより尖閣諸島の領有権については中立の立場を取りながらも、同諸島が日本の施政下にあることを認め、日米安全保障条約第5条の対象であることを明言してきた。中国側はアメリカが日米安保条約を口実に尖閣をめぐる問題に介入しようとしていると批判しているが、日本から見ればこのようなアメリカの姿勢が中国側に日本との軍事対決を思いとどまらせる抑止力として機能していることは間違いない。

 しかし、日本側はアメリカが1972年の沖縄返還時に尖閣諸島の施政権も日本に返したという歴史的経緯があるにもかかわらず、領有権について中立を保っていることに不満を感じてもいる。

 そのアメリカ政府の中も一枚岩ではないかもしれない。少なくとも国務省と国防省の対応には温度差を感じる。国務省は中立の立場を強調し、日中双方に自制と平和的解決を要請している。一方、国防省は空母2隻を日本の周辺海域に派遣して中国を牽制し、自衛隊による島嶼防衛能力の向上にも積極的に協力している。そこには、尖閣有事の際の日本防衛の意図をより明確に中国に伝えようという考えがみてとれる。つまり、国務省が外交上のフリーハンドを維持するためより中立的な立場を重視するのに対し、国防省は条約上の防衛義務をより重視しているのだろう。

 中国から見れば、アメリカの介入を引き起こしかねない日本との武力衝突は可能な限り回避したい。このため、尖閣周辺には軍艦ではなく、法執行機関の監視船を送り込んで、自衛隊が出て来る口実を与えないようにしている。仮に自衛隊が海上保安庁の代わりに出てきても、先に日本が軍を出して挑発したと非難し、アメリカ軍が動けない状況を作り出すことも可能だ。

 もちろん、軍艦を使った牽制も忘れてはいない。10月16日に中国海軍の艦船7隻が尖閣から200キロ離れた与那国島の周辺海域を通過したことは、その一例だ。19日には、東シナ海で中国海軍の艦船が監視船と航空機の運用を含めた共同訓練も行っている。

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