知財をうまく使うには、その国の事情を知っておくことが必須である。事情を知らずに特許を出願しても、出願したという事実が残るだけで実際にはほとんど使えないであろう。途上国の知財制度は、表面上きれいに整備されているところが多く、文献で制度を調べていてもそれだけでは不十分である。より重要な情報はどれだけ知財制度が機能しているかであり、それを得るには実際に使ってみた経験や事例を、人脈を通じて集めることが有効である。ホンダはアフリカでも原告として知財の権利行使をし、勝っている。勝つにはそれだけの準備をしており、情報を集めていたのである。
知財が最も機能しているアフリカの国はガーナである。ガーナの知財弁護士たちは、アフリカで最も頼れる存在で、ガーナ政府は海外の権利者に好意的であり、知財裁判は客観的で公平である。そのためアフリカでの知財活動を考えるにはガーナを軸にして、他の国はガーナとの差異を認識する。
ガーナに続くのは、ザンビア、ジンバブエ、ケニア、ウガンダである。これらの国も歴史的にちゃんと知財を扱ってきた法曹がおり、政府の知財への認識も高く、その国のしっかりした大学がバックアップしている。
これらの国に基本的に共通するのは、海外からの技術の導入意欲が高い点である。海外の権利者はその国に技術を移転し投資をしてくれる存在であるからこそ守られる。日本企業がアフリカで知財活動をするときには、それをチラつかせなければいけない。日本企業の知財を侵害しているのが中国や韓国など他国の企業である場合、それらの企業よりも自分たちがより多く技術を移転し、投資をするという姿勢を示すことでより大きな協力が得られる。模倣品、侵害品をもってアフリカのビジネスを奪いにくる企業を排除するのは、自分たちこそがそこでビジネスをするためである。
アフリカには1つの出願で多くの国をカバーする広域知的財産制度がある。英語圏の16カ国(ARIPO)と仏語圏の16カ国(OAPI)の2つがあるが、ガーナなどはみな英語圏側で、知財をうまく使おうとするならまず英語圏側からになる。
これらの国にはタンザニアやモザンビークなど小さいながらも非常にしっかりした国が含まれている。仏語圏の方はコンゴ、セネガル、ニジェールなどが含まれるが、機能は低調である。そのためしばらくは知財活動を見合わせてもいい。出願しても費用が無駄になる恐れが大きい。またARIPOのオブザーバー国のエジプトは内政問題があるため現時点では様子をみる程度にするにしても同じくオブザーバー国である南アフリカの知財の機能は相当しっかりしている。