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2013年5月2日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 今年4月29日、我が国の安倍晋三首相がロシアを訪問し、プーチン大統領との会談を行った。日本の首相としては10年ぶりの公式訪問であり、メディアでも大きく取り上げられたので、ニュース等で目にされた方も多いと思う。安倍首相は、大統領府直営ホテル「プレジデント」ではなくクレムリン宮殿内の一室(しかもスターリンの右腕で後に最高会議議長となったヴォロシーロフ元帥の居室)を宿舎として提供されるなど、ロシア側の歓迎はかなり手厚いものであったように見える。

交錯する日露の思惑

 実際、プーチン政権が安倍政権に対して抱いている期待は小さくない。

 現在、ロシアは最大の経済的パートナーである欧州の経済停滞や米国のシェール・ガス革命による天然ガス需要の伸び悩みといった困難な経済的状況に直面する一方、依然として高い経済成長を続けるアジア太平洋地域への参入を国家戦略の重点を位置づけている。その一方、アジア太平洋地域への窓口となるべき極東地域は社会・経済的な発展から取り残され、人口流出が止まらない。ロシア政府はAPECのウラジオストクへの誘致(当初はサンクトペテルブルグでの開催が予定されていたが、プーチン大統領の政治決断でウラジオストクに変更された)、新宇宙基地やLNG(液化天然ガス)基地の建設、極東開発省の設立など、極東振興のための様々な施策を打ち出しているが、極東自身に有力な産業が生まれなければ持続的な発展は望めない。

 そこでカギとなってくるのが日本のカネと技術だ。たしかに極東における経済的パートナーとしては中国の存在感が圧倒的に大きいが(中国は2011年にドイツを抜いてロシアの最大の貿易相手国となった)、産業の育成という観点から見ると中国の貢献度は低い。現状では、ロシアは中国に資源を供給する為の「燃料タンク」に過ぎず、極東の発展には何ら寄与していないとの不満がある。それどころか、このまま極東の弱体化が続けば、かつての不平等条約によってロシア帝国が得た極東の領土に対して中国が再び領有権を主張してくるのではないかとの懸念さえ見られる。

 これに対して日本はエネルギー資源の顧客として有望なだけでなく、極東の産業育成を進める上で有望なパートナーだ。2012年にはウラジオストクにマツダの自動車組立工場がオープンしており、落成式典にはプーチン大統領も自ら出席するなど、ロシア側は日本企業の進出に強い期待をかけている。今年2月にはトヨタの組立工場も稼働を開始した。

 今回の訪露でも安倍首相は120人というかつてない大規模な経済ミッションを同行させ、投資枠組み「日露投資プラットフォーム」の設立で合意したほか、医療、食品、農業、都市インフラ、省エネといった日本が得意とする各分野での協力を話し合った。ただし、日本側が期待していたLNG絡みでの協力については具体的な合意が得られていない。

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