聞き手/構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗)
撮影・井上智幸
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瀧口 今回のテーマは「ダークマター(暗黒物質)で宇宙の謎が解ける」です。そもそもダークマターとはどのようなものなのでしょうか。
戸谷 数十年前からその存在は知られつつも、いまだにその正体が分かっていない、天文学上の謎です。銀河系の星の動きを見ると、星を引っ張っている重力があることが分かる。重力があるのだから、そこには物体があるはずです。ですが、星の動きから銀河系全体の質量を計算すると、見えている星の質量のざっと10倍ぐらい、目に見えない物質があるようなのです。これがダークマターです。
いろいろな宇宙論的なデータを総合すると、ダークマターはどうも未知の素粒子のようです。つまり、水素や炭素といった通常の元素や、電子など、われわれが知っている粒子ではないらしい。今の素粒子の標準理論にまだない、未知の粒子だろうというのが、最有力の説です。しかもそれは素粒子なので、そこら中、銀河系全体を満たしている。この部屋の中にもダークマターの粒子はいっぱい飛び交っています。
瀧口 ここにもですか?
戸谷 うじゃうじゃいます。また、ダークマターの他にもう一つ、「実は重力理論が間違っているのではないか」という考え方もあるのです。重力の法則を変えることで解決しようという発想も、何十年と試みられてきました。ただ最新のデータを見ると、重力の法則を変えてもなかなかうまくいかない。やはり未知の物質があって、ニュートンの万有引力の法則に従う重力源として存在しているという考え方が、今のデータと最も合致しています。ただ、その粒子が何なのかが分からない。
瀧口 ダークマターが知らないうちに人体に何かしらの影響を与えている可能性もあるのですか?
戸谷 可能性はゼロではないですが、もしわれわれの体に影響があるのだとすると、これだけ科学者が一生懸命に精密な物理実験をやっていれば、ダークマター粒子と普通の元素がぶつかる現象はどこかでもう気付かれていると思うのですが、それが全く検出されていません。
似た例で言うと、東京大学の小柴昌俊教授や梶田隆章教授がノーベル賞を受賞した素粒子「ニュートリノ」です。あれもダークマターになり得るもので、今も、ニュートリノもこの部屋の中にいっぱい飛び交っているのですが、ニュートリノはわれわれの体を突き抜けてもわれわれの物質と全く相互作用せず、気付かない。
瀧口 もしそうしたダークマターの正体が解明されたら、どうなりますか?
戸谷 未知の素粒子が発見されるわけですから、人類が持っている物理法則の基礎である素粒子理論が書き換わります。ノーベル賞10個分ぐらいの価値はあると思います。
瀧口 天動説が地動説になるぐらいの衝撃ですね。
戸谷 その後は技術的な応用ですね。例えば原子核も、昔の物理学者は純粋な知的興味で調べていました。それが巨大なエネルギーを出すということが分かり、原発や医療機器など工学的な応用が進んでいった。100年後の話かもしれませんが、ダークマターの正体が判明すれば、工学的な応用も進んでいくでしょう。
江﨑 ダークマターは偏って存在しているのでしょうか、それとも満遍なく存在しているのでしょうか。
戸谷 銀河を中心に偏っていますね。そもそも、宇宙の始まりであるビッグバンの直後は、物質は宇宙に均一に存在していました。それがダークマターの重力の「ムラ」によって物質が集まって、星が生まれ、銀河が生まれた。われわれがここにいるのも、ダークマターのおかげです。
中須賀 そうすると、ダークマターは物質的なものとして存在するのだけど、われわれには観測の手段がないから見えていない、ということですか。
戸谷 そうです。ニュートリノも「カミオカンデ」のような巨大な施設を造ってようやく観測できました。恐らく銀河系を中心にダークマター粒子が密集しているところは、ダークマター粒子同士がぶつかって、ガンマ線か何かを出している可能性は考えられるので、何とか観測しようとしているのですが、なかなかうまくいっていません。
瀧口 観測設備が整っていけば、分かるかもしれないですね。
中須賀 それはぜひ衛星でやりたいですね。
江﨑 宇宙ならノイズが少ないから、やりやすいかもしれません。
加藤 つまり「カミオカンデ・イン・ザ・スペース」みたいなものを造るわけですね。
中須賀 そうそう(笑)。