WEDGE REPORT

2013年6月6日

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井上久男 (いのうえ・ひさお)

ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大学卒業後にNEC入社。92年朝日新聞社に転職。主に経済部で自動車や電機産業などを担当。2004年に独立。近著は『メイド イン ジャパン 驕りの代償』(NHK出版)。

 トヨタ自動車は最近、系列下請け企業に極秘の資料を配布した。複写・配布・転用厳禁と書かれたその資料のタイトルは「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」。トヨタが2015年から発売する新車に適用する新しい設計手法のことである。

 その中では、韓国の現代自動車や独VW(フォルクスワーゲン)の車とトヨタ車でデザイン、走り、燃費・環境技術、初期品質、低コストなどの効率性を比較して「トヨタが勝っているのはHV(ハイブリッド車)だけ」とはっきり書かれている。TNGAは、競争力ある車づくりに対するトヨタの危機感から生まれたものだ。トヨタグループはこれまでトヨタを頂点に結束を誇ってきたが、このTNGAによってトヨタの系列破壊が徐々に進む可能性がある。

トヨタの目指す「全体最適」

 これまでトヨタは北米を中心とする先進国市場で稼ぐビジネスモデルだったのが、リーマンショック以降は南米や東南アジアなど新興国市場の拡大によって世界市場全体で収益を出していかなければならない状況になっている。現にトヨタの13年3月期決算の営業利益1兆3208億円のうち約3割を占めるのはアジア地区(中国除く)で、海外事業では北米を上回り稼ぎ頭となっている。今後もこの傾向が続くと見られる。

 しかし、一方で、新興国市場の拡大は自動車メーカーに開発費増大の負担を強いる。たとえば、タイではピックアップトラック、インドネシアではミニバンといった具合に個々の国によって売れ筋車種は異なる。同じ「カローラ」でも国内向けと海外向けとでは車体の大きさや仕様が違う。市場のニーズに合わせて車種を個別に開発していけば開発コストが膨大になる。

 トヨタは従来、車のベースとなるプラットホーム(車台)を開発して、それを複数の車種に展開するという手法を採っていた。この手法では、バリエーションに限界があるうえ、搭載する部品は車種ごとに開発責任者がゼロから設計するケースがほとんどで、個別最適に陥って高コストになりがちであった。

 TNGAとは簡潔にいえば、これまでは車種ごとに開発してきたのを改めて、「ドライビングポジション(運転席周辺)」「エンジンと周辺部品」といったブロック(アーキテクチャー)単位で開発し、そのブロックを車台や車種を超えて適用する開発手法なのである。トヨタとして世界で全体最適を目指す手法ともいえるだろう。

 一方で全体最適を進め過ぎると、車の「個性」が喪失してしまうリスクもある。このためトヨタは、走りや乗り心地など他社と製品を差別化する部分については個別最適にもこだわる考えだ。トヨタの加藤光久副社長(技術担当)は「商品力向上と原価低減という二律背反のことを同時並行で展開しなければ競争に勝てません。それには個別最適の開発手法を見直す必要があり、エンジニアの働き方改革を進めます」と語る。開発・設計の進め方をゼロベースから見直すという意味でもある。

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