都内在住の会社員、坂田良子さん(39歳、仮名)は、約5年にわたる不妊治療の末に出産したが、治療終盤、胚移植(体外受精で受精卵を子宮に戻すステップ)が4回連続で成功せず、友人と会う気力を失うほど落ち込んだという。
高校時代から不妊に関心があり、大学生の頃には、加齢に伴う妊孕性(にんようせい、妊娠のしやすさ)の低下という事実まで認識していた坂田さんでさえ、治療の長期化による精神的ダメージは想像以上だった。
「それまで、勉強も仕事も、一生懸命やれば大抵のことはできてきた。だから一生懸命治療すれば子どもは授かるとどこかで信じ切っていました」
かと思えば、40代で1回の体外受精で出産という例もある。「夫42歳、妻35歳で結婚し、7年間子どもができませんでした。周囲の助言でクリニックに行くとすぐ体外受精を勧められ、1回で授かった」。ただしこの夫婦も3回挑んだ2人目の治療はうまくいかなかった。
このように、不妊治療の成否は個人差が大きい。体外受精の平均出産率(分母は総治療周期数)は11.4%しかない(2010年のデータ、日本産科婦人科学会資料より)。
不妊治療と仕事の両立ですら難しい現実
少子高齢化時代に労働力を確保するためには、女性の社会進出をさらに推進していく必要があるのは間違いない。「女性活用」は安倍政権の成長戦略の柱になっている。
しかし、働く女性の前に立ちはだかるのが「35歳の壁」だ。
不妊に悩むカップルは急増し、体外受精の件数はこの5年で倍増。2010年の実績はなんと24万件である(10年)。特に増えているのは、35歳以上の年齢層なのだが、皮肉なことにその35歳近辺を境に出産率は下がる(図)。原因は「卵子の老化」にある。
大学を卒業してから「卵子の老化」の35歳までというとわずか約10年しかない。「仕事に慣れ、子どもが欲しいなと思ったら35歳を過ぎていた」そう話す女性は多い。
「妊娠しやすい20代で出産しようとすると、仕事でキャリアをつくれない。だから30代半ばまでは仕事に没頭してしまう。それから不妊治療を数年、出産できたら今度は育児休暇。休暇があけて、無事職場に戻れたが、もう40代になってしまった。会社は管理職にしてくれたが、本音ではもっと子どものそばにいたいのですが・・・」(前出の坂田さん)。