次に、経済的な自然災害からの被害の大きさで地域を比較する。表5は「消防白書」による過去5年間の各地の被害総額を足し合わせ、入手可能な最も近時点の各都道府県内総生産で除して作成した。
被害総額の面からだけ見ると、ここ5年間でもっとも大きな打撃を受けた地域は熊本県であることが分かる。熊本県は「令和2年7月豪雨」で人的被害に加え、インフラ関連でも極めて大きな被害を受けている。このため、別称で「熊本豪雨」とも呼ばれている。なお、表5の集計期間には含まれていないが16年には熊本地震の被害も受けている。除数は1年分の県内総生産であるため、値が大きく見えるが、熊本県はこの5年間で県内総生産1年の4分の1近くにあたる損害を受けていることになる。
熊本県に次いで被害の程度が大きい長野県も「令和2年7月豪雨」の影響を受けている。長野県では千曲川が氾濫し、北陸新幹線の長野新幹線車両センターの水没によって、新幹線120両が浸水し、この浸水した新幹線をすべて破棄することで被害額は150億円に上ったといわれている。
リスク分散とビジネス拠点の地域選択
最後に、過去5年間の「被害総額の県内総生産比」の地域間の相関を見ることとしよう。金融工学の理論からすれば、投資対象の金融商品は1種類に集中せず、なるべく分散し、さらに金融商品相互間に相関がないものを組み合わせるべきであるとされている。そうすることによって、抜群の収益率を実現することはできないが、いっときに資産が全滅する事態は避けられるためである。
この考え方をビジネス拠点に応用するならば、複数の拠点を全国に分散して配置し、たとえどこかで災害が起きても、もう一方の地域では無関係で無事にビジネスを継続できる体制づくりが必要である。このような災害に備えた事業プランは「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」と呼ばれている。
そこで、表5のもととなった東京を除く46都道府県の「各年の被害総額の県内総生産比」を5年間分集め、地域間の被害の相関係数を求めたものである。その結果、相関係数の絶対値の小さいベストテンは以下の表6の通りとなった(この場合、地域間の被害は無相関が望ましいので0に近い方がよい)。ただし、この表は東京都を含まず、また災害の種類は考慮せず、過去5年間の被害総額の県内総生産比に限定した分析であるため、注意が必要である。しかし、逆に言えばあらゆる災害を金額に換算して統合した分析ともいえる。
表6をみると、地理的に離れた地域の組み合わせが多く、「たすきがけ」のようなイメージがあることが分かる。興味深いのが、島根県・広島県の組み合わせで、同じ中国地方であるが中国山地で隔てられている効果があることがわかる。また、第1位の静岡県・和歌山県は過去5年間では地震、風水害損害での相関は極めて小さいものの、東南海地震のことを考えると一考の余地があると言えよう。
この組み合わせ表は、ビジネスの拠点の検討にも有用であるが、自治体間が行政上の防災協定を結ぶ上での検討対象を定量的に検討することでも有用と思われる(両自治体が同時に被災する確率が小さいため)。