2024年11月1日(金)

#財政危機と闘います

2023年3月11日

 2022年の出生数は79万9728人と、内務省・内閣統計局『国勢調査以前日本人口統計集成』によれば、1872年の出生数が56万9034人、翌1873年が80万9487人だったので、1873年以降、初めて80万人下回った。なお、現在に至る人口動態統計制度が確立したのが1899年なので、巷では1899年以来最低の出生数と報じられている。いずれにしても、少子化対策が待ったなしの喫緊の課題であることは国民の共通認識と言えるだろう。

(west/gettyimages)

明治32年以来最悪の出生数にどう対処するのか

 こうした国難ともいえる「危機的な」少子化に対して、岸田文雄首相が子育て予算を倍増する「異次元の少子化対策」を打ち出したことは、本連載でも再三取り上げている。

 この「異次元の少子化対策」の財源として、権丈善一慶應義塾大学教授が提唱する「子育て支援連帯基金」構想が有力となっている。「基金」構想では、年金・医療・介護保険などの公的保険財源から一定額ずつ拠出して、少子化対策の財源とする。

 こうした「基金」構想と似た案として、2017年に自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会」が提案した「こども保険」がある。社会保険料に0.1~0.5%程度上乗せする「こども保険」を導入することで、所得制限なしで現行の児童手当に一律月額5000~2万5000円を上乗せして幼児教育・保育の負担軽減や実質無償化を図ろうとするものだった。

 通常、社会保険は、何らかの社会的なリスクに対応するものとして設計される。

 例えば、年金保険であれば長生きリスク、医療保険であれば病気になるリスク、介護保険であれば要介護状態に陥るリスクだ。どうやら「基金」構想が念頭に置く「リスク」は、このまま少子化が進行すれば社会保障の持続可能性が失われるという「リスク」に対応するもののようだ。

 専門家の間では、子育てが社会保険の対象とする「リスク」であるか否かさまざまな議論はあるが、そもそも社会保障は、国民の合意形成に基づいて特定の「リスク」を選択し、それに対応した制度を導入してきた。例えば、家族が増えるということは家計支出の増加を意味し、そうでない場合に比べて家計が苦しくなることをリスクとみなし、社会で支えるのも十分可能である。したがって、子育てが「リスク」であるかを問うことは、神学論争に陥ってしまい、あまり意味がない。


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