欧州連合(EU)では2050年脱炭素の目標に向け、EUの二酸化炭素(CO2)排出量の23%を占める輸送部門、中でも16%を占める乗用車と小型商用車(バン)からのCO2排出削減策が議論されてきた。
22年6月に、乗用車とバンからのCO2排出量を35年までにゼロにする欧州委員会(EC)の法案が、加盟国の環境大臣会合で長時間の交渉の末合意された。35年までに一部の例外を除き電気自動車(EV)以外の販売を禁止する法案だ。
22年10月には欧州議会も同意し、今年2月に議会で採択された。加盟国の環境大臣も既に同意していることから3月7日の形式的な加盟国の投票を待つだけになっていた。
しかし、土壇場にきてイタリア政府が反対を表明し、ドイツとフランスに対しても反対を呼びかけた。ドイツはECとの議論の当初から、水素から製造される合成燃料を使用する内燃機関(ICE)自動車を例外とするように主張し、ECも「26年に合成燃料使用の見直しを行う」旨、法的拘束力のない前文に記載すると表明していた。
だが、ドイツも土壇場にきて、「合成燃料の使用の検討はEC次第であり、検討が行われない可能性がある。合成燃料使用のICE車の販売が35年以降も認められない限り法案に反対する」とした。
フランス運輸相も合成燃料使用のICE車の販売を35年以降も認めるべきと発言していたが、フランスがEU理事会議長国を務めた22年上期に加盟国間で一旦合意された法案であるため、表立って反対の立場を表明することはなかった。
イタリア、ドイツに加え、ポーランドとブルガリアも反対票を投じると報じられ、法案成立の条件の一つ「EU加盟国人口の65%以上の賛成」を満たせないことが明らかとなり、23年上期の理事会議長国スウェーデンは3月7日の投票を延期すると発表した。いつまで延期するかは発表されなかった。
なぜ、最終局面で揉めることになったのだろうか。いま法案成立の目途は立たなくなったが、35年EV化は実現するのだろうか。
EV化は中国に市場を奪われる
イタリアでは政権交代があった。前政権が合意した法案だったことも態度を変えた理由の一つかもしれないが、それ以上に切実な問題がある。
イタリア・エネルギー相は、「EV以外にもCO2削減の方法はある」と主張し、外相は、「100%のCO2削減ではなく90%で良い筈」とした。運輸相は、「イデオロギー原理主義だ。EV化は中国の利益になり、EUの自動車産業を害する自殺行為」と法案を評した。
EV化により原材料の中国依存が高まることと、中国EVメーカーに欧州自動車市場を明け渡すことになるとの懸念だった。