今や「流行語」とも言えるビッグデータだが、「また、ITの何か?」程度の知識の人は少なくないはず。
ところが、実はビッグデータが流行する前から「ビッグデータ的なもの」は生活の中にいくつもあった。
ビッグデータの活用とは、「データマイニング(Mining=採掘、鉱業)」と呼ばれるように、大量の情報の中から有用な事実を発見することだ。
データマイニングでは、結果のみが重視される。英・エコノミスト誌のケネス・クキエ記者、オックスフォード大学のビクター・マイヤー=ショーンベルガー教授が著した『ビッグデータの正体』(講談社)によれば、「結果が分かれば理由はいらない」とある。つまり、因果関係ではなく、相関関係に注目するのがビッグデータ活用のポイントである。相関関係を導き出すには、統計学の手法が使われるが、身近な例から「文系でも分かる」ビッグデータ的なものを紹介する。
治療の個別化 その先にあった漢方
「医療の世界でいま起き始めているのはビッグデータを活用した個別化治療です」と話すのは、総合内科専門医で慶應義塾大学環境情報学部の渡辺賢治教授。
例えば、一昨年すい臓がんで亡くなったアップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏。遺伝子診断を行うことによって、ジョブズ氏に効くと思われるオーダーメイドの抗がん剤治療をしたことで、延命することができた。
西洋医学は、個人よりも病気に着目して、それを効率的に治療することで発展してきた。ところが、ここにきて個人差のある遺伝子というビッグデータを解析することによって、治療の個別化の時代に入ろうとしている。
実は、これは漢方への接近でもある。渡辺教授によれば「漢方というのは、究極の個別化治療です。西洋医学が病気を治療するのに対して、漢方が行うのは病気を治す人の能力を引き出すことです」。能力の引き出し方は個人によって異なる。だからこそ、漢方の治療は個別化したのだ。