6月22日、午前10時30分。オンラインミーティングの画面上には、続々と女性たちが集まってきた。
この日の参加者は24人。メンバーは子育て中のお母さんや妊婦さんのほか、大阪大学大学院・医学系研究科の小児科医、産婦人科医、助産師、臨床心理士、文化人類学者といった子育てのスペシャリストたちだ。
質疑応答の時間になってから約1時間20分、子育てに関するさまざまな質問が飛び交った。
「1ヵ月検診を終えた頃から吐き戻しをするようになりました。最初はなかったので大丈夫かなと心配です」「最近、よく寝返りをしてうつ伏せになるのですが、寝返り返りができないので30秒ほどすると泣き出します。あやしても泣き止まないので私が仰向けにしてあげるのですが、また自分で戻って泣く、という無限ループで疲れてしまいました」「どういったおもちゃや絵本を選べばいいでしょうか」――。
それらに対して、専門家たちは「赤ちゃんはよく吐くもの。それも仕事の一つです」「夜泣きは成長の証しで、いつかは終わる。期間限定ですから、しばらくはパパと協力して乗り切って!」「子どもが読みたい絵本を選ばせることが大切。でも、読ませたいものをこっそり忍ばせておくのもいいですよ」などと、笑顔を交えて回答する。そして、回答中には必ず「大丈夫」「よくあること」「そんなに悩まなくていい」という言葉を添えていたのが印象的だった。こうした回答を聞いたお母さんや妊婦さんたちが安堵の表情を浮かべていたのは言うまでもない。まさに〝魔法の言葉〟である。
大阪大学大学院では今、医学系研究科が中心となり、育児を楽しめる社会を目的に、Society5・0の技術を活用しながら、育児困難感の軽減に向けた「生誕1000日見守り研究」に取り組んでいる。冒頭のやりとりは、バーチャル空間を用いた、新たな妊娠・育児支援方法の開発の一環として、月1回のペースで開催しているオンライン座談会の様子である。
同研究の最大の特徴は、研究領域を超えた連携にある。参加する研究科は、医学系研究科(医療情報学、産科学婦人科学、小児科学)、医学系研究科保健学専攻、人間科学研究科、情報科学研究科などさまざま。当然、得意分野は異なるが、育児困難感の解消に向けて、各研究科の力を融合・活用するとともに、周辺自治体や医療機関、民間企業、他大学を巻き込みながら「育児困難感予測モデル」を作成中だ。
現時点では、子育て中に感じる困難は、各自治体の特徴によってばらつきがあり、母親たち個々人の特性や、置かれた環境、赤ちゃんの気質などによっても異なるということが、データから少しずつ分かってきている。本研究ではそれらの見える化を図り、将来的に母親それぞれの個性や状況にフィットしたサポートを行うことを目指している。まさに大学という「知(智)のインフラ」を生かした社会実装の取り組みといえる。