宗教的信念から同性婚に反対しているウェブデザイナーは、同性カップルの結婚に関わるサービスの提供を拒むことができるか?――この点をめぐって争われた事件(303 Creative LLC v. Elanis)で米国の連邦最高裁判所が、ウェブデザイナー勝訴の判決を下したことで注目を集めている。
米国では性的少数者(LGBTQ+)の人々の権利が日本と比べて認められていて、ギャラップ社の調査によれば同性婚を認めるべきとする人は64%となっている。だが、LGBTQ+の人々の権利を擁護する声が強まる一方で反発を感じる人々の声も強くなっており、バックラッシュ(揺り戻し)を危惧する人も存在する。
ピュー・リサーチ・センターが2020年7月に行った調査によると、米国民のおよそ7%がレズビアンかゲイかバイセクシャルだということである。年齢別にみると若い人の方が比率が高く、30歳未満の場合にはおよそ17%、30歳から49歳までの場合には8%、50歳から64歳までの場合は5%、65歳以上の場合は2%となる。その比率は男性と女性でほぼ変わらず、人種集団別、民族集団別の差異はない。
日本でも性的少数者への理解を増進し、差別を解消することを目的としたLGBT理解増進法案が通過するなど、LGBTQ+についてさまざまな動きがみられるようになっている。そこで本稿では、米国におけるLGBTQの現状の一端を紹介することにしたい。
権利と反発
LGBTQ+の人は建国期から常に存在してきたはずだが、犯罪の対象とされるなど抑圧され、沈黙を強いられてきた。だが、ストーンウォールというゲイバーに警察が立ち入り捜査を行ったことに反発して暴動(ストーンウォールの反乱)が行われて以降、異議申し立てが公然と行われるようになっていった。
そしてジェンダー研究の進展もあり、LGBTQ+の人々の権利は徐々に認められていった。もっとも、彼らは数の上でマジョリティになることはなかったため、その権利は主に司法の場で認められていった。
例えば、03年には異性間以外の性行為を犯罪化していた反ソドミー法が覆された。13年には結婚を男女間に限ると定めた結婚防衛法の主要規定に違憲判決が出されて、州レベルで認められていた同性婚を連邦政府も承認するようになった。そして、15年には同性婚を禁じる州法に対して違憲判決(オバーゲフェル判決)が出され、米国でも同性婚が容認されたのである。
だが、オバーゲフェル判決以後、とりわけコロナ禍以降、共和党が多数を占める州を中心に、LGBTQ+の人々の権利を制限する試みがさまざまな形で行われている。例えば、20年より前にはトランスジェンダーの女性が学校でスポーツに参加するのを禁じたり、トランスの若者が性別適合に関する医療にアクセスするのを妨げたりする州法は存在しなかったが、コロナ禍以降、アイダホ州がLGBTQ+の人のスポーツ参加を禁じたり、アーカンソー州が性別適合手術を禁止するなどし始めた。
近年では、性別適合手術を行っている医療機関を対象とする規制が一部の州で強化されている。今年になってからも、子どもたちがLGBTQ+について教育機関で学ぶことを制限したり、トランスジェンダーの人々が体育の授業に参加する権利を制限したり、トイレの使用を制限したりする州法が制定されている。保守派の人々は、LGBTQ+は子どもにとっての脅威だと主張している。