ワシントン駐在 政治部記者が見つめる“オバマの変革”

2009年4月3日

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飯塚恵子 (いいづか・けいこ)

読売新聞政治部次長
上智大学卒業後、読売新聞社入社。政治部記者として首相官邸、自民党、外務省、防衛庁などを担当。1998年から2000年まで那覇在住、03年から06年までロンドン特派員。

 先週のワシントン・ポスト紙に、オバマ大統領のミシェル夫人の専属ヘアスタイリストが判明した、という記事が出ていた。夫人の髪を2年前からセットしているというシカゴ出身の黒人男性の美容師だ。

ファーストレディ・ミシェル夫人出典/ White House

 髪をいじる間、いろいろよもやま話をするようだが、ポスト紙の取材にこの美容師は、夫人の好みや会話の中身についてはほとんど口を閉ざし、「ファースト・ヘアスタイリスト」に不可欠な“資質”を見せた。

 そこで思い出したのが、日本の歴代首相の床屋通いだ。最近の首相はホテルなどの理髪店での散髪が多いが、少し前は、故・小渕元首相が衆院議員会館 地下二階の「宮宗理髪室」に好んで通っていたのが印象深い(福田前首相だけは、夫人が自前で切っていた)。散髪後に首相番記者らが取材しても、各床屋さんたちはシカゴの美容師同様多くを語らなかった。が、大概の首相にとって床屋での散髪は、永田町の外の空気に触れ、文字通り“談義”する良い機会となるようだ。

 日米に限らず、どこの指導者も権力トップの座に就いた途端、外界との直接のパイプが細る。心ある指導者は、世論の空気が読めなくなることを恐れ、 パイプの維持に腐心する。オバマ大統領が就任時に、警備当局の懇願を押し切って自らの携帯電話を持ち続けることにこだわったのも、そうした意識の表れだ。

 大統領の腐心はそれだけではない。毎朝、執務室に入ると10通の手紙が届けられる仕組みを作った。米国民から大統領に届く一日約4万通の手紙の中から、スタッフが選ぶのだという。大統領はそれらを執務の合間に読む。その他、地方の対話集会に頻繁に出向くほか、最近は、ホワイトハウスのウェブサイトでもオンラインの対話集会を始めた。

 米国民の圧倒的な支持で誕生したオバマ大統領にとって、国民とのコミュニケーションは、政権基盤の維持に欠かせない命綱の一つだ。通常、コミュニ ケーションは双方向性が重視されるが、今のオバマ政権を見ていると、当面は「インプット」より「アウトプット」に力を注いだ方が良いのでは、と感じる。

 目下、オバマ大統領の最大の難敵は、経済・金融危機だ。これはブッシュ前政権から引き継いだもので、大統領は選挙期間中からすでに多くの専門家や支持者らの意見を聞き、ブレーンらと共に「何が必要か」に関する「インプット」を蓄えている。

 今の政権に求められているのは、各種対策の正当性や必要性、そしてそれに伴う苦痛や忍耐などを国民に理解してもらうための「アウトプット」の技術だろう。英語で言えば、政策をどう“sell(売る)”するか。

 政権にとって、最初のセールスの大失敗は、あまりにも明白な形でやってきた。1700億ドル(約16兆3000億円)という巨額の公的資金注入 (=国民の税金)を受けながら、幹部社員400人以上に高額ボーナスを支給していた米保険大手AIGをめぐる対応だ。ボーナス総額は2億2000万 ドル(約210億円)に上ることがわかり、国民の怒りは瞬く間に広がった。

 オバマ大統領と他の政権幹部の対応は、はっきり分かれた。

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