2024年4月19日(金)

中国メディアは何を報じているか

2013年10月16日

ここ数年国防費を上回る治安維持費

 今回紹介した中国全土で展開されるネット監視は、習政権による最近の思想や言論統制というより、むしろ制度的な構造の紹介である。地方でどのような形でネット世論の監視が行われ、そこに企業がどう係わっているのか、というメカニズムの話である。ポイントは地方で中心的役割を果たすのが党委員会傘下の宣伝部門だという点だ。

 中国ではここ10年ほど治安維持には警察に加え、特警と呼ばれるSWATに相当する軽武装の機動隊や対国内の軍事力である武警部隊強化の拡充が進められてきた。治安維持費は「維穏費」と呼ばれ、その額はここ数年国防費を上回るほどである(13年の予算案では治安維持費が7690億元で国防費は7406億元。ちなみに環境保護費は3286億元)。国防費が減少したというわけではなく、増加する国防費を上回る速度で治安維持費が急増したのである。そうした広い意味での治安維持スキームにネットでの世論監視が加わる形になったわけだ。

 記事では地方における党の宣伝部門が様々な手を使ってネット世論の監視を進めている状況が明らかにされ、企業と結びついた形で利権とビジネスの構造が形成されつつあることが分かる。治安維持の掛け声の下に実施される世論統制が、党宣伝部門の指導の下で利権化し、ビジネスとして膨張するさまは、「市場化」が進む中国経済における中国的特徴を示している。

 この記事では肝心な監視の中身、対象には触れられずじまいだ。ちなみに人民日報ネット版の「ネット世論分析師研修」記事の下には下着姿の女性のあられもない姿の写真が三面記事の形で燦然と掲載されている。多くの青少年の関心を引くためであろうが、少なくとも「お色気」写真は監視の対象にはなっていないようである。


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