うつ病はDMNの異常と関係する
帯状回の血流を増やすことが重要

都立駒込病院脳神経外科 篠浦伸禎・部長に聞く


海部隆太郎 (かいべ・りゅうたろう)  ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病対策が叫ばれているが、減少する兆しは見えない。うつ病蔓延の原因は不景気の影響や豊かさの中での愛情の欠如など、多様な背景があげられるが、定かではなく、証明できるものもない。こうした状況を踏まえ、うつ病患者の実態と対策、予防策について、あらゆる角度の専門家たちにインタビューする。

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うつ病は脳の病気である。「脳内の神経伝達物質、セロトニンとノルアドレナリンが少なくなり、意欲や気分をつかさどる脳の機能が低下し、抑うつ症状が起こる」とうつ病の本には書いてある。この現象を疑う気もセロトニンなどを服用する一定の効果も否定しないが、これで元の状態に戻るとは思えない。そこで脳とうつ病の関係について都立駒込病院の篠浦伸禎・脳神経外科部長に聞いた。

篠浦伸禎(しのうら・のぶさだ)
1958年生まれ。東京大学医学部卒。シンシナティ大学分子生物学部留学。富士脳障害研究所、東大医学部付属病院、国立国際医療センターなどを経て2000年、都立駒込病院脳神経外科医長、09年から現職。脳の覚醒下手術ではトップクラスの実績を誇る。著書に『脳にいい5つの習慣』(マキノ出版)、『臨床脳外科医が語る 人生に勝つ脳』(技術評論社)、『どんどん脳を使う』(エイチエス)、『驚異の「ホルミシス」力』(太陽出版)など多数。医学博士(東大医学部)

脳には人間脳と動物脳がある

――最近、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という言葉を知りました。意識して何かをしていれば、脳が活動するということは分かりますが、何もしていない時も脳が活発に動いている領域(ネットワーク)があるという。何とも不思議な現象ですね。これをどのように見ているのですか。メンタルな部分との関わりについても教えてください。

篠浦:簡単に言えば、刺激が入らない時に活性化する脳の動きのことです。その機能は永く解明できませんでしたが、2、3年前から多くの論文が出て、そこで分かってきたことは自我であるということです。このDMNの異常が、あらゆる精神疾患に関わっているといえます。言い換えれば、自我の領域の血流を増やし、その部位の神経細胞を大きくさせてやれば動きが活発化し、これが精神的な問題を解消させることにつながります。

 では自我とは何か。結局は脳の司令塔のことです。場所は脳の中心にある帯状回で、ここは前の部分は神経細胞が大きく、後ろは多くの神経線維が集まっています。この部位が脳全体をコントロールしているのです。なぜコントロールが大事かと言えば、動物的な脳を抑え込む必要があるからです。

――動物脳と人間脳という言葉の意味を教えてください。

篠浦:人間らしい行動や思考をつかさどる大脳新皮質を『人間脳』、食欲、性欲、快感、恐れなど本能的な情動をつかさどる大脳辺緑系を『動物脳』と私が造語しました。分かりやすくするためです。仕事や日常生活でのストレスに対しては動物脳が反応します。自己を守るために備わった動きを主にするのですが、動物脳の指令だけで動くということは本能だけで行動することになります。それを人間脳がコントロールするからこそ、私たちは社会生活を営むことができるのです。

 人間脳と動物脳の境目にある帯状回が、人間らしく脳を使う重要な機能をもっているのですが、ここに障害が起きると動物脳が暴走してしまうことになります。例えば扁桃体で感じる不安、恐れなどが支配してしまうことにつながります。これが精神的な諸問題を引き起こしている原因ともいえます。この構造が理解できないで、神経伝達物質であるセロトリンなどを投与していても本質的な解決にはならないでしょう。

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「うつ病蔓延時代への処方箋」

著者

海部隆太郎(かいべ・りゅうたろう)

ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

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