2024年11月1日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年3月12日

 第96回米アカデミー賞授賞式で、宮崎駿監督のアニメ映画「君たちはどう生きるか」が長編アニメ映画賞、山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞を受賞した。日本映画が視覚効果賞を獲得したのは初めて。日本のアニメや映画が世界に認められ、コンテンツ輸出が伸長されることが期待されるが、そう簡単にはいかなそうだ。日本のコンテンツ産業のあり方に課題がある。2023年1月12日に掲載した記事「まだまだ足りない日本のアニメ・ゲーム輸出への努力」を再掲する。

 このパンデミックの期間中、米国だけでなく、世界中で日本のコンテンツへの需要が拡大している。コロナ禍による巣ごもり需要やインターネット通信の発達も背景にあるが、日本文化そのものへの憧れや理解が広がっていることも大きい。具体的には、アニメとゲームの人気だが、近年では日本発のファンタジードラマなども世界的な人気を博している。

米NYで行われた 日本アニメのイベント。日本のコンテンツは米国はじめ世界で人気を博す(REX/アフロ)

 だが、日本発のコンテンツ産業は、まだ十分にその実力を発揮しているとは言い難い。今回はこの「伸びしろ」を実際の成長に結びつけるために、3つの提言をしてみたい。

世界からの理解へ意識を

 1つはコンテンツの質である。日本発のコンテンツは、表現のクオリティーや一貫したスタイルという点では、ハリウッドやディズニー、あるいは中国圏や韓国のライバル事業者と比べて、一歩も二歩も先んじていると思われる。質という意味では十分に高い水準にある。

 だが、現時点での多くの作品は、「日本市場向けに作ったら、偶然世界でもヒットした」という例が圧倒的なようだ。勿論、クリエーターとしては、自分が面白いと信ずる内容で突き進むので良いと思うし、結果的にそれが世界でも評価されるのは良いことだ。だが、この先、世界が寄せる大きな期待感に応えるためには、少し違うアプローチが必要と思われる。

 まず、メッセージを強めに、そして深めに表現するということだ。メッセージを強めるというのは、単純な勧善懲悪の二元論にせよということではない。むしろ、単純な二元論を超えていることが、日本のコンテンツの魅力だということは既に世界のファンは良く知っている。

 であるにしても、市場側の理解力に甘えるだけでは足りない。善悪の相対化にしても、いや価値観全体の相対化でアニミズム的に無為自然に還るという思想でも、徹底して深め、その上で分かりやすく表現するということは必要だ。


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