国民の食卓にのし掛かる二重負担
減反(生産調整)の去就が農政改革の焦点に浮上している。石破農相はタブーなく議論するとしたが、自民党農林族や全国農業協同組合中央会(全中)がそれに反発を強めている。いかにも麻生政権の基盤が弱く、農相は孤軍奮闘の感が否めない。しかも減反廃止の落としどころと言われる「選択制」も、生産調整に参加していない農家にお墨付きを与える現状追認策で、農政改革というには心許ない。
減反はいうまでもなくコメの価格を維持するためのカルテルだが、それが農政の最優先課題とされ他の政策を縛り農政をゆがめている。1970年にスタートし既に40年近く続いているものの、米価は毎年下がりつづけ、さらなる減反を行うなど米価下落と減反強化の「いたちごっこ」が続いている。
それでも米価維持が我が国農政の基本。需給調整至上主義とでもいうべき農政がつづいている。コメ関税が778%とべらぼうに高いのも米価を維持するためだ。その代償としてMA米など外国産米の輸入を課されているが、事故米などの弊害が公になっている。農家にコメを作るなといっておきながら、77万㌧も輸入するのはどう考えても納得できない。
我が国はこうした政策にこれまで約7兆円、2008年度は年2000億円の予算を投じてきた。さらに生産調整を廃止するとキロ当たり100円程度米価が下がると言われているので、国民は毎年およそ6300億円を負担(100円×主食流通量630万㌧)してコメを買い支えていることになる。米価維持政策によって国民は税負担に加え二重の負担を強いられているのが現状だ。コメ消費も価格が需給実態と合わないことから減退している。食料自給率向上を謳いながらコメの生産も消費も縮小させる農政はどうにも理解不能だ。
国民に負担をかけることで農業の競争力が高まったかというと、そうではない。米価維持が基本といっても稲作を儲かる産業と考えている農家は殆どいない。なぜなら元々零細だし、たとえ規模拡大してもその3割から4割に減反がついて回るため、規模の経済の足かせとなって稲作を効率の悪いものにしているからだ。
減反は経営のやり方にあれこれ規制をかけ「主業農家」の創意や工夫を削ぎ、農業の成長や担い手の育成にブレーキをかけてきた。その結果稲作生産者の8割を1㌶未満の農家が占める、競争力に欠ける構造を温存する一因となってきた。農産物の販売農家は我が国に175万戸しかいないにもかかわらず、コメ作付け農家はその1.4倍の250万戸に及んでいる。市場経済から撤退したはずの「自給的農家」が立派に減反政策の対象になっているのだから驚きだ。米価維持政策は「零細農家」温存策と言われても仕方がない。