民主党の鳩山由紀夫代表は9月7日、シンポジウムで講演し、温室効果ガス排出削減の中期目標について、「2020年段階で1990年比25%減」を表明した。中国やインドが削減義務を拒み、米国や欧州の動きも不透明ななか、CO2排出量が、世界トップの米国や中国の5分の1にすぎない日本(世界全体の4%)が突出して高い目標を掲げる意味はどこにあるのか。
既に世界最高水準の省エネ国である日本が90年比25%減を達成しようとすれば、企業も家計も著しい負担を負うことになる。企業は海外に移転し、ますます雇用は失われるだろう。しかも、そうやったところで、世界全体のCO2が減るかどうかわからない。「高い数字を掲げれば世界をリードできる」などというナイーブな姿勢で、国益と国益が衝突する厳しい国際交渉に臨めば、後世に大きなツケを回すことになる。
本稿は、麻生政権の中期目標発表以前のものだが(5月20日)、その指摘の重要性はいまも失われていない。 ――09年9月9日、編集部追記
現行の京都議定書は、2012年をもって期間を終了し、その後の温暖化問題に関する国際的枠組みは、本年末コペンハーゲンにて開催される条約締約国会合(COP15)で、合意を見ることが予定されている。
政府は、このCOP15に先立ち、京都議定書後における我が国の中期目標を国際社会に提示し、交渉に臨むこととしている。昨年10月、官邸の「地球温暖化問題に関する懇談会」(座長・奥田碩トヨタ自動車相談役)のもとに、「中期目標検討委員会」(座長・福井俊彦前日銀総裁)が設置され、検討を進めてきた。
同委員会は、3月27日、20年を目標年次とする6つの選択肢を示した。今後、政府は、パブリックコメント、国民との対話集会等の手続きを進め、この6月までには麻生太郎総理の決断により、我が国としての中期目標が決定される手はずとなっている。
残された時間は僅かである。しかし、この中期目標やその後の国際交渉の帰趨は、間違いなく、今後十数年にわたり、我が国の経済活動や国民生活に重大で広範な影響を与える。国内各層が十分に理解し、そのコンセンサスの上に立って、この重い政策決定が行われることを切に希望し、その一助になることを期待して、この小論を進めたい。
京都議定書の轍を踏んではならない
まず、認識されるべきは、現行の京都議定書は、多くの根本的問題を抱えていることである。京都議定書の下では、中国・インド・ブラジル・韓国等の新興工業国家は、「発展途上国」に分類され、条約上の「共通だが差異ある責任」原則のもと、一切の削減義務が免除され、また、これを理由に、最大排出国である米国も同議定書を離脱している。京都議定書は、日・EU等が排出量の30%弱をカバーするに過ぎず、既に、実体的基礎を失っている。加えて、上記の主要排出国に対し、削減義務を免除し、無制限の温暖化ガス排出を保証している結果、温暖化防止に対し、逆効果となっている。