2024年4月19日(金)

この熱き人々

2014年5月14日

たったひとりで出版社を立ち上げて20年。社長兼社員として編集から営業、販売までをひとりで担い、大手が作らない本を地道に出し続けてきた。時代がいかに変わろうとも、必要とされる本がある限り、ひとり出版社のフル稼働の日々は続く。

本の谷間に棲む

 『ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏』(無明舎出版)という本がある。それも1冊ではなくPart1からPart3まで3冊もある。ひとりでやっている出版社の社長が新刊を出すたびに新刊ニュースを作り、そこに「裏だより」というコラムを書き続け、それが3冊の本になった。今年で創業21年目。20年間でコツコツ出し続けた本は825冊、月に4冊から5冊、年間では50冊から60冊の新刊を出版し、年商は1億2000万円とか。出版不況と言われるご時世にひとりで達成したこの数字は衝撃的ですらある。

 東京都世田谷区。静かな住宅街の相当に年季の入ったマンション内にあるという「岩田書院」に、社長兼ヒラ社員でもある岩田博を訪ねる。開きっぱなしの玄関ドアから中を覗いて、思わず絶句してしまった。靴を脱ぐわずか50センチ四方の先はどこまでも続く本の山で視界が遮られ、「どうぞ」という声はするが姿は見えない。どうしたら奥まで辿り着けるのか途方に暮れる。ところどころ低い山があって、そこを乗り越えながら進むしかないと覚悟を決め、本の山に突入する。どうやら原形は2Kの間取りらしいが、内部の構造が全くわからないほど本で覆い尽くされている。きっとここは廊下だったのだろう、ガス台だけが辛うじて見えるあの部分はキッチンか? うっかり手をつけば周囲の山から本雪崩が起きて埋まってしまう恐怖と戦いながら、障害物競走のような気分で進んで、やっと岩田を発見。毛糸の帽子に防寒ジャンパー。ほとんど外にいるのと同じいでたちで、猫の額も負けるわずかなスペースに座っていた。目の前は机のはずだが、本や資料に占領されて机上が消滅している。

 「自分でもここに毎日うまく入り込むのは大変です。机の上も場所がなくなって、今は引き出しを開けてその上で仕事をしてます。コックピット状態ですね。ま、何とかパソコンは使えますから。冷暖房がないけど、冬でも8度以下にはならないし、夏もなぜか32度より上がらない」


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