南米・ペルーのナスカ台地に描かれた巨大な地上絵群。これまで十分な調査がなされなかったその数や位置関係を世界で初めて明らかにし、正確な分布図作成を進めている。だれが何のために描いたのか、どんな意味が潜んでいるのか─。地道な調査と検証を積み重ね、壮大な古代の謎に挑む。
アンデスへの道
2012年10月30日。南米ペルー共和国ナスカ市で、「山形大学人文学部附属ナスカ研究所」の開所式が、ペルー文化省関係者、ナスカ市長、駐ペルー日本大使、山形大学学長など約100人が出席して盛大に行われた。ナスカといえば、1994年に世界遺産に登録された「ナスカの地上絵」で世界中の人に知られている。一方、各国の研究者たちが撤退した後、現在、現地での調査研究を続けているのは日本の山形大学「ナスカ地上絵プロジェクトチーム」だけということはあまり知られていない。
ナスカとほぼ地球の裏側にあたる日本の山形大学でナスカ地上絵研究のプロジェクトチームが産声を上げたのは04年。誰もが「あの人が山形大学にいたから」と語る産みの親が人文学部の坂井正人教授である。
ナスカとは気候も風土も全く違う山形市にある山形大学の坂井の研究室。机の上にはパソコンが1台。その画面に東西20キロ、南北15キロの石と砂のナスカ台地が現れる。テレビ番組で見たハチドリやサルやクモなどの動植物、無数の直線などが次々と映し出されると、つい視聴者気分になって「宇宙人が描いたのかと思いました」などと口走ってしまう。
「宇宙人説となると、宇宙人はいると考えているわけですね」
いやいや、そんなに深い意味ではなく……と焦りながら、パソコンを操作する坂井を見ると、謎を転がして面白がるのとは全く違う真剣なまなざしがあった。実証を伴って謎の解明に心血を注ぐ学者の厳しい目が見据えているのはどんな世界なのか。