中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年5月28日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

米国議会予算局の試算

 新型インフルエンザの感染拡大が心配されている。もっとも、新型インフルエンザといっても、いままで想定されていた鳥インフルエンザとは異なって毒性が弱く、いまのところ気をつけつつも過度に敏感になる必要がなさそうなのはせめてもの幸いである。

 今回の新型インフルエンザの広まりでは、学校が臨時休校となったり、観光地での客足が減ったりで経済や企業活動への影響が懸念されている。すでに、いくつかの試算が発表されているが、新型インフルエンザの流行が経済にもたらす影響を考える上で参考になりそうな試算が米国議会予算局(CBO)より発表されている。

 少し前のレポートではあるが、2005年にCBOが鳥インフルエンザの大流行の米国経済への影響を試算したレポート(”A Potential Influenza Pandemic: Possible Macroeconomic Effects and Policy Issues”)である。試算の対象が強毒性の鳥インフルエンザなので、その分割り引いて見る必要があるが、同レポートでは深刻ケースとマイルドケースを試算している。

 深刻ケースは、鳥インフルエンザがかつてのスペイン風邪並みの大流行となった場合(米国での感染者9000万人、死亡者200万人)で、医療サービスが急増する一方、海外旅行の減少、国民の外出自粛、労働力の減少などによって米国のGDPは▲5%程度下押しされるとしている。

 他方、マイルドケース(感染者7500万人、死亡者10万人)では、GDPは▲1.5%余りとしており、通常の景気後退期での景気悪化度合いと同程度で、深刻なリセッションには陥らないとしている。いずれの場合も、影響が大きな業種は、エンターテインメント、ホテル、レストランなどのサービス業としており、交通サービスへの影響も大きいとしている。一方、食品などの日常必需品への需要はそう落ち込まず、小売への影響は相対的には小さいとしている。

経済的影響の度合いは風評被害や休業がカギ

 CBOの試算は、あくまでも毒性が強い鳥インフルエンザの大流行を前提としたものである。マイルドケースでも深刻な想定であることに変わりはなく、現状での新型インフルエンザの状況には当てはまらない。

 しかし、少なくとも現在の状況では、その経済的損失はCBOのマイルドケースの試算を大きく下回っており、世界経済への下押しはGDP比▲0%台程度と言うことはできよう。日本経済でも同様であり、現状であれば、ともかく経済への影響をあまり勘案せずに国民の健康を最優先する措置を行うに尽きるように見える。

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