農地争奪に出遅れる日本

自給率UPだけで大丈夫?


Wedge編集部

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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砂漠の中に、円形の小麦畑が整然と並ぶ。中心にあるスプリンクラーから水が撒かれ、広大な畑を潤す。

 世界最大の産油国であるサウジアラビアは、年間250万トンの小麦を生産する農業国でもある。石油の探査で見つかった地下水をくみ上げて砂漠を灌漑し、農家から国際価格の数倍の値段で小麦を買い取って、1974年に自給自足を達成した。86年から約10年間は、近隣諸国や旧ソ連に小麦を輸出していた。

 だが、地下水はまだ砂漠に緑があったころに降った雨が溜まった「化石水」で、一度くみ上げたら終わり。毎年50億トン以上をくみ上げ続けたことで、石油より早く、今世紀半ばに完全に枯れる恐れが出てきた。

自給率0%! サウジの合言葉「オイルをソイルに」

 これを受け、サウジ政府は2008年1月、世界の農業関係者があっと驚く決断をした。

 「今年から農家からの小麦の買い付けを毎年12.5%ずつ減らし、今後8年で全量を輸入に切り替える」

 30年間巨費を投じて100%に引き上げた食料自給率を、0%にするというのである。

 世界的な食料不足が深刻化し始め、穀物市場では小麦や大豆価格が高騰を始めていた。水が大切なのは分かるが、地下水の枯渇は半世紀も先のことだ。こんな時に、なぜ自給放棄を決断したのか。

 「原油価格が過去最高値で推移している今こそ、小麦の生産中止を実行する好機だ」

 サウジの農業当局筋はこう答える。巨額のオイルマネーがある今なら、必要な食料はいくらでも買える。ならば、このチャンスを生かし、いっそ食料を生産する農地や、その水源を丸ごと買い上げてしまおうと考えたのだ。

 小麦の生産中止決定から4ヵ月後には、サウジ政府は海外農業への投資拡大計画を閣議決定し、世界中で農業投資交渉を始めた。候補先はイスラム圏で中東に近い国が中心だが、タイなどアジアの米作農地にも触手を伸ばしている。

 砂漠での農業の経験があるサウジ企業が現地資本と合弁会社をつくり、灌漑から耕作、出荷まで一貫して手がける。相手国政府と一定割合をサウジに輸出する協定を結び、安定確保を目指している。かつてメジャーが石油でしたことを、今度は自らが食料でしよう、というわけだ。

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