2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2008年12月20日

日本の商社が海外の農業投資に消極的な理由

 こうした中で、自給率わずか40%、世界最大の食料輸入国である日本は、この争奪戦から完全に出遅れてしまっている。

 農林水産省は、「海外に農地を確保しても、相手国政府が輸出規制をしたら意味がない。食料安全保障の観点からは、まず自給率を引き上げる方が先決だ」(幹部)と、表向きは争奪戦には加わらない構えだ。

 危機感がないわけではない。08年8月には大手商社を集めて、海外の農業投資を進めるよう要請したのだが、商社の多くに断られ、打つ手がないのである。

 大手商社も、何もしていないわけではない。三井物産は、ブラジルで出資する農場の規模を14年までに今の約12万ヘクタールから25万ヘクタールに増やす計画を進めている。丸紅は、米国のトウモロコシ・大豆の生産地で、エレベーターと呼ばれる穀物の集荷施設を増強した。三菱商事は、農業投資を社内横断的に研究する「食料資源総合政策委員会」を発足させた。伊藤忠商事や双日も食料の川上分野への投資を検討している。

 だが、日本の商社には、70年代に相次いで海外農業に進出したものの、その後の農産物市況の低迷で撤退に追い込まれた苦い過去がある。加えて日本の消費者は食の安全への関心が強く、いい品質のものでなければ買わない。安全上少しでも疑念があるだけで、巨額の投資がすべて無に帰すリスクが、大規模投資を阻む要因となっている。

 例えば、遺伝子組み換え作物。日本の食品メーカーは、直接口に入れる食品には、遺伝子組み換え作物は使っていない。食品安全委員会が健康上は問題がないとお墨付きを出している品種でも、消費者の反発を恐れて使えずにいる。だが、世界各地の穀倉地帯では、病虫害に強く、収量増が期待できる遺伝子組み換え作物への切り替えが急ピッチで進んでいる。こうしたなかで非組み換え農地を確保するのは、商社にとっても年々難しくなってきている。

 「日本が海外農家に品質面で注文をつけられたのは、穀物が買い手市場だったから。売り手市場になれば、注文が少ない相手に売り渡される。世界一の食料の買い手という日本の優位性は低下していくだろう」

 大手商社の幹部は、こう警告する。


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