チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年7月15日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 「抗日戦争の時、日本を利用して(蒋介石の)民国政府を打倒し、経済開放の際には日本を利用して経済を活性化させ、現在は日本を利用して愛国主義や民族主義を展開し、人民の忠君感情を高めている」

 「一魚三吃」(1匹の魚で3回食べる)と題した著名な中国人知識人・呉祚来氏の発言がインターネットで転送され、話題となっている。

 日中全面戦争の発端となった1937年の盧溝橋事件から77年を迎えた記念式典が7月7日、北京市郊外の盧溝橋にある中国人民抗日戦争記念館で開かれたのを受け、呉氏はこう発言したのである。

 習近平共産党総書記(国家主席)は記念式典演説で「遺憾なことに、中国による抗日戦争勝利(45年)から70年近くが経った今日、依然として少数の者が鉄のように固い歴史事実を無視し、侵略の歴史を否定・美化し、国際的な相互信頼を壊して地域の緊張をつくり出している」と訴えた。「少数の者」というのは安倍晋三首相を指しているのは間違いない。

 「反日」に前のめりになる習近平の狙いは何なのか。

国内と安倍政権に「異例」伝える

 7月7日式典の特徴は「高規格(高ランク)」(共産党機関紙・人民日報系の環球時報)という言葉に集約される。

 中国共産党指導部では抗日戦勝記念日の9月3日に大規模な記念式典が10年ごとに開かれるのが恒例となっている。小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝で日中関係が悪化した60年の2005年には、胡錦濤国家主席(当時)が約1時間にわたる演説を行い、「日本国内ではA級戦犯の魂を呼び戻そうとする一部勢力がいる」と批判した。

 しかし盧溝橋事件を記念した記念式典で最高指導者が出席したことはない。70年の2007年には主賓として何魯麗・全国人民代表大会常務副委員長が出席したが、あいさつしないなど、当時改善した日中関係への配慮を示した。

 今回、習近平の演説は15分程度で終了し、「侵略の歴史をわい曲・美化するいかなる者を、中国や各国の人民は絶対に認めない」とも声高に述べたが、「内容は温和」(複数の中国の学者・記者)と見られている。3月末に訪独した習は、「日本軍国主義は南京で中国軍民30万人超を虐殺した」などと発言したが、今回は戦争犠牲者数を明示せず、名指しせずに安倍政権へのけん制に重点を置いた。

 77年という中途半端な年に最高指導者の習近平が出席した「異例さ」を安倍政権と中国国内の2方面に訴える意味があったのだ。

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