カジノの経済効果は不透明
共食いでは意味がない


鳥畑与一 (とりはた・よいち)  静岡大学人文社会科学部経済学科教授

1958年生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。専門は国際金融論。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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規制緩和による新たな市場の創造。その一つとして脚光を浴びているのが「特定複合観光施設」にカジノを認めるIR推進法案である。言うまでもなく刑法で禁じられた賭博(ギャンブル)の合法化で生まれる「巨大」市場である。

 IRは、カジノと共に会議場、レクリエーション、展示、宿泊などの施設を、民間事業者が設置及び運営するが、その中核はカジノ収益である。米投資銀行CLSAは、2月に日本全国12か所のカジノ開業で年間400億ドルの収益を生み出す巨大市場になると発表し、スロットマシンなどの機器やホテル・会議場建設などの投資をはじめ、雇用や税収の増加などで「地域経済の振興に寄与する」とされている。

 しかし、カジノが地域振興の「魔法の杖」ではなかった現実が、いま米国で顕在化している。ラスベガスと並んでカジノによる繁栄の象徴とされてきたアトランティック・シティで、1月の「アトランティック・クラブ」閉鎖を皮切りに、3分の1のカジノが閉鎖というドミノ現象が起きたのである。貧しい地方の街がカジノで復興した象徴とされたトゥニカ(ミシシッピー州)でも、今年6月に街最大の「ハラス」が閉鎖した。カジノ依存の地域振興の危険性が、いま全米各地で噴出しているのである。

 この背景には、カジノ拡大による競争激化がある。アトランティック・シティの顧客は、約90%がマイカー等の陸路経由であるため、ニューヨーク州など周辺州のカジノ合法化で市場を失い、06年52億ドルから13年29億ドルへと収益が激減している。しかしより大きな背景には米国カジノ市場の飽和化と構造変化があるとされる。リーマンショック以降、米国カジノの収益が停滞する一方で、税収増を狙った州政府がライセンスを乱発することでカジノ数が増加し過当競争に拍車がかかってきた。さらにはオンライン型カジノの急成長で従来のカジノそのものが衰退産業化しているとも指摘されている。

 米国カジノ市場の現状は、カジノの短期的利益だけを評価して政策決定することの危険性を示している。長期的利益の評価ばかりか、カジノが生み出す負の側面も踏まえた総合的評価が不可欠である。私企業としてのカジノが撤退した後、それが残した「負の遺産」を背負い続けるのは国であり地域社会なのである。米国ニューハンプシャー州(NH)の「ゲーミング調査委員会報告書」(10年)は、カジノ合法化の政策的判断は「いかに早くかではなくいかに慎重に」行うかが重要と強調しているが、日本においても、その経済的利益を一面的に強調するのではなく、以下のような負の側面も含めた総合的議論が行われねばならない。

 第1にカジノ開業による「カニバリゼーション」(共食い)の発生である。カジノの収益は顧客の「負け金」であり、勝ちと負けは差引きゼロとなる。更に、表1ではカジノ60キロ圏内の住民1556万人がカジノで415億円消費することで波及効果は708億円に達するとしているが、それは裏返して言えば周辺市から最大で415億円の購買力が奪われマイナスの波及効果が発生することを意味する。

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著者

鳥畑与一(とりはた・よいち)

静岡大学人文社会科学部経済学科教授

1958年生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。専門は国際金融論。

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