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2014年10月14日

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飯田将史 (いいだ・まさふみ)

防衛省防衛研究所主任研究官

1972年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学後、防衛庁防衛研究所に入所。スタンフォード大学東アジア研究専攻修士課程修了を経て、2005年より現職。専門は中国の外交、安全保障政策。

ベトナムが管轄権を主張する海域で石油を掘削し、フィリピンが領有権を主張する環礁を埋め立てる─。中国の強硬な海洋進出は、周辺諸国との間に軋轢を生じさせている。

 「アジアの問題はアジアの人民が根本的には処理しなくてはならず、アジアの安全保障はアジアの人民が根本的には守らなければならない」

 中国の習近平国家主席は、2014年5月に、中国が主催して上海で開催された「アジア信頼醸成措置会議」のサミットで、こう強調した。同時に習近平は、サミットに参加していたロシアのプーチン大統領やイランのロウハニ大統領を前に、「軍事同盟の強化は地域の安全にとって不利である」とも主張し、新たな「アジア安全保障観」を樹立する必要性を訴えた。

 周知のように、アジア、とりわけ東アジアの安全保障は、強力な米国の軍事的プレゼンスを、地域の同盟諸国が支えることによって維持されてきた。米国と日本や韓国、フィリピン、オーストラリア等との複数の二国間同盟が、米国を中心とした東アジアの安全保障秩序を保ってきたのである。

 その同盟を否定し、域外国によるアジアの安全保障への関与を拒否する「アジア安全保障観」は、東アジアにおける既存の安全保障秩序に対する中国の明確な挑戦状といってよいだろう。「中国はアジア安全保障観の積極的な提唱者であり、ゆるぎない実践者である」と習近平は強調し、アジアにおける新たな安全保障秩序の構築に向けて主導的な役割を発揮する姿勢を明確にした。

 最近、中国による力任せの海洋権益拡大への動きが目立っている。14年5月に、中国がベトナムと領有権を争っているパラセル諸島(西沙群島)の南部海域で、中国の巨大な石油掘削リグ「海洋石油981」が掘削作業を開始した。中国側は海上法執行機関の監視船に加えて、海軍の艦艇も動員し、百数十隻の船舶を投入して、この作業の中止を求めたベトナム海洋警察の監視船の抗議を実力で封じ込めた。

 その過程で中国側の船舶は、ベトナム側の船舶に対する体当たりを繰り返し、体当たりされたベトナムの漁船が沈没したり、負傷者が出る事態も発生している。

 ベトナム側が公開した映像に映っている中国海警局の監視船には、船体番号から見て東シナ海を担当する東海分局に所属するものも存在している。ベトナム側の抗議を予測し、全国から監視船を集めるなど周到な準備と強い決意を持っていたことが伺える。

 中国はこの数年の間、東シナ海や南シナ海、西太平洋といった中国の周辺海域において、力を背景とした現状変更の試みを続けている。東シナ海では、日本の固有の領土である尖閣諸島に対して、中国は一方的に領有権を主張している。

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