エボラ患者は入院できても退院できない
レベル4ラボを正式稼働せよ!

国立感染症研究所村山庁舎のBSL-4施設


村中璃子 (むらなか・りこ)  医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

【緊急特集】エボラ出血熱

(画像:iStock)

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(c)Thinkstock

――ある老婆の血液を採取している最中、彼女が突然発作を起こして暴れだした。狂ったように彼女が片手を振り回した拍子に、注射針が抜けた。それだけならよかったのだが、血まみれのその針がマコーミックの親指に刺さってしまったのである。あっ、と思ったときには遅かった。こいつまずいぞ。針は深々と刺さってしまった。ウイルスが彼の血流に入り込んだのは間違いない。

 エボラ出血熱を題材にしたノンフィクション小説『ホット・ゾーン』の一節。マコーミックは米疾病対策センター(CDC)の特殊病原体研究室の主査で、1979年のアウトブレイク(流行)の時、南スーダンから生きたエボラを持ち帰ることを志願した唯一の医師だった。この後、彼が懐から取り出すのは、氷で冷やしながら携帯していたエボラ「抗血清」の小瓶。抗血清とは、感染したのに回復した患者から採取された血液の上澄みのことで、中にはエボラウイルスと闘うための免疫(抗体)がたっぷりと含まれている。マコーミックは、当時、唯一有効性が期待される治療法とされていた、この「抗血清療法」を自らに試し、死を免れた。

 エボラにはじまったことではない。日頃からも針刺し事故は、医療者にとっての身近な恐怖。日本での受け入れ準備に関して、施設や設備、防護服などに関する報道ばかりが目につくが、筆者が最も気になるのは、日本でエボラの抗血清が準備されているのかどうか。抗血清療法の安全性や効果を疑問視する声もあるが、それは対処療法以外のすべてのエボラ治療において同じ。日本製の抗インフルエンザ薬「ファビピラビル(商品名:アビガン)」や、米ベンチャーが開発中の「ジーマップ(ZMapp)」など、未承認薬にも期待したいが、抗血清療法はそれこそ最も古典的な、実績のあるエボラ治療法だ。

 1976年のコンゴ(現、ザイール)のアウトブレイク時に、類似ウイルスであるマールブルク病から回復した患者から取った血清をある女性に使用したところ、効果が見られたのが最初(ただし、女性は後に死亡)。1995年のコンゴでのアウトブレイクでは、投与した8人中7人が回復した実績を持つ(注:文末参照)。万が一日本でも患者が出た場合に使えるようにしておくのはもちろんのこと、針刺し事故も想定して、医療者用の予備も絶対に準備しておきたい。

 患者が増え続けているという悲観的報道の傍ら、未承認薬に関しては安全性が確認されないのに「効いているようだから、使うべき」というような、楽観的トーンが強い。特に発症の初期、発熱から5日以内での投与例での治療成績は有望に見える。

治療法によらず、日本に欠けていること

 では、日本でも薬や抗血清が手に入り、早期に治療を開始できれば、とりあえずは万全、といってよいのだろうか。実は、これらの治療法を実際に日本で運用するに際し、すべてに共通して言える、非常に重要なことがひとつある。

 それは、日本では、エボラ患者と分かれば、強制的に隔離・入院させられるが、「退院はできない」という、衝撃の事実だ。

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「【緊急特集】エボラ出血熱」

著者

村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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