【緊急特集】エボラ出血熱

2014年11月5日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 結果は「エボラ陰性」。リベリアに滞在し、羽田空港で発熱していたという男性は、エボラかどうかを調べる簡易検査のPCRで陰性との診断を受け、3日間の隔離後、無事退院した。これは良いニュースのはず……? しかし、陰性が確定し、退院したとのニュースは、まるで認めたくない事実であるかのように、静かな報道だった。

 塩崎恭久厚生労働相は10月28日、閣議後記者会見で、発熱男性への一連の対応を「準備の段取りどおり」と評価した。男性を国立国際医療研究センター(国際医療センター)に搬送し、血液検体を国立感染症研究所(感染研)村山庁舎に送って、陰性の判定がでるまで約14時間。エボラかどうかの判定をするPCR検査そのものに7時間かかったことを考えれば、まずまずの結果だろう。

国立感染症研究所村山庁舎のBSL-4ラボ内部の写真(提供:国立感染症研究所)

 エボラ患者に対応できる病院は全国に45か所ある。都内にはいくつかの受け入れ病院があるが、羽田空港に一番近いわけでもない国際医療センターに患者が送られたのは、おそらく、受け入れ態勢がもっとも整っているから。

なぜ村山庁舎に検体をわざわざ運んだのか?

 しかし、血液検体の送り先についてはどうか。厚生労働省によれば、PCR検査ではウイルスを不活化させる処理を施すので、検査検体が「エボラ疑い」の患者からのものであれば、BSL-3(バイオセイフティレベル3)の安全基準のラボで実施してよいとしている(注1)。BSL-3ラボは、全国に数多くあり、複数のBSL-3ラボをもつ感染研の本部(戸山庁舎)は、患者が入院した国立国際医療研究センターから早稲田側に坂をのぼってすぐのところにある。戸山の感染研本部でやる方が時間も節約でき、検体輸送に関わるリスクも軽減できるのに、なぜ血液検体はわざわざ武蔵村山市にある感染研の村山庁舎にまで送られたのだろうか。 

 これには理由がある。「エボラ疑い」としてBSL-3で検査された検体は、「エボラ確定」となると突然、扱いが変わってくるからだ。感染症法によれば、いったん、エボラと確定した検体は、確定から2日以内に破棄するか、BSL-4に運ばなければならない。しかも、エボラと同定されたウイルスを運ぶとなれば、どの信号を何時何分に通過する予定であるといった、詳細な内容も記した分厚い書類を事前に警察に届け出なければならず、実際の輸送中に通過予定ポイントを5分以上遅れるようであれば、その都度報告しなければならないらしい。検体を破棄せず、BSL-4へ検体を移すという選択肢を残すことを考えた場合、村山庁舎以外のBSL-3ラボでPCR検査を実施し、このすべてを2日以内に行うというのは非現実的だ。

 村山庁舎には、地元の反対により1981年の設立以来一度も正式稼働していない、世界最高レベルの安全基準(バイオセイフティ)をもつBSL-4のラボがある。エボラのような危険性が最高クラスの病原体は、このBSL-4の基準を満たすラボでしか取り扱ってはいけないというWHO基準があり、日本の感染症法もそのように定めている(注2)。

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